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 私の体には虫が棲んでいるのです。
 もう、十五年の付き合いになります。
 この虫は私の命を少しずつ蝕んでいく。
 お願いです。貴方の力で、私の虫を殺してください。

(……不力虫、か)
 彼女から手紙で症状を聞かされたとき、なるほどとは考えた。不力虫。魔力なしを蝕む病。複数の菌によって起こされると言われているが、現代の顕微鏡では見つけることができていない。だから、この病についてはすべてが仮定で説明される。
 “おそらく”、これらの菌は、魔力を保有する土地にならばいくらでもあふれている。そしてそこで生きる動植物は、皆少なかれ数種類の不力菌を体内に飼っているのだ。通常、肉体では不力菌と魔力が常に争いあっている。魔力を持つ生き物であれば両者の力は拮抗するが、先天的及び後天的な魔力なしの場合は不力菌に体が負ける。不力虫とは多種の菌の総称であり、病にかかった患者の別称でもある。
(多分、そういうことだったと思う)
 昔読んだ話なので現在はどうかわからないが、決定的な治療法は見つかっていないとされていた。外部から魔力を与えても体が受けつけなかったり、菌によっては効く魔力と効かない魔力があるという。名称こそ一つだが、症状も感染経路も多様なのだ。すぐに治る者もいれば、一生を虫と共に歩んでいく者もいる。
 いまだ不明なことばかりなのは、ペシフィロたちクスキの民には研究の必要がない病だからだ。総じて皆魔力を持つクスキ人は、不力虫に負けることはない。発症するのは魔力を持たないヴィレイダ人ばかりである。
(……侵略の罰だ)
 クスキの土地を侵さなければ、病にかかることもなかった。あの、魔力の加護に見放された島の中で生きていれば、不力菌には触れずに済んだはずだ。
 ペシフィロは首を振った。百年近く昔のことを恨んでも仕方がない。たとえ、今はヴィレイダの領土であるこの場所が、かつてペシフィロたちの祖先のものだったとしても。
 迷いを斬り落とすかのように、かがんだ首根を掴まれた。ぬるま湯を滝のごとく落とされて、洗剤をかけられる。まだ洗いは終わっていないのだ。ペシフィロはたらいの中で嵐のような磨きに耐えた。まるで古びた洗濯物の気分である。乱暴にこすっても、年月をかけて染み付いた貧乏臭さが消えてくれるわけではないのに。使影の頭首らしき男は、きっとこうしてペシフィロを洗いながらも眉一つ動かさないのだろう。目を閉じているため確認はできないが、想像は容易だった。
 また、湯をかけられて盛り上がる泡が落ちていく。詰めていた息を吐くと疲れがどっと肩にきた。まだですかと問う気持ちで顔を上げると、部屋の隅でスーヴァが服を用意しているのが見える。洗うのが頭首ではなく彼だったら、と思わずにはいられない。怯えはするだろうが、この情けを持たない男よりは気を遣ってくれるだろう。
 眺めていたせいだろうか、頭首が低く囁いた。
「あまり、あれに触れるな」
 ぎくりとするペシフィロの耳に、さらに警告を叩き込む。
「取り込んだ所で、お前には扱えない」
 どういう意味かと問うことはできなかった。再びのゆすぎにペシフィロは息を止める。残された泡を徹底的に流すのだろう、執拗なまでに頭から湯を落とされた。うつむいて、うっすらと目を開ける。骨ばったペシフィロの手を飾る紋様。染料を取って残ったそれは、酸化した血の色をしていた。こすっても、滲まない。身に達するほど深く切られた爪を並べて、ひたすらに流しに耐えた。
 腕を引いて立たされ、あらかじめ敷いてあった板の上に載せられる。体を拭く担当は、ありがたいことにスーヴァだった。頭首が部屋を出た隙に話しかける。
「スーヴァは、したことある?」
 先ほどから気になってしかたがなかったことだ。乾いた布に上半身を揺すられながら返事を待つと、随分と長い沈黙の後に、肯定を呟かれた。ペシフィロはもう一度水をかけられた思いで頭を垂れる。へえ、そっか、と呟きは弱くなった。
「……今何歳?」
「じゅ、十五、です」
 しばらく何も言えなかったのは、衝撃的だったからだ。うん、そうか、と意味もなく口にしながらどんどん頭が低くなる。曲がりきった肩を直されて、ごめんなさいと敬語がもれた。
 なんだか、この屋敷にいるすべての人が、ペシフィロより上の立場である気がしてくる。これから先敬語でしか生活できない予感がして、頭の中で必死に言葉を復習した。地位や恩のこともあるが、“お嬢様”はペシフィロより十歳上の三十である。犯罪的に幼いよりはましだが、どうか手紙と同じく優しい人でありますように、と願わずにはいられない。
 いろんなことで破裂しそうな頭を、念入りに乾かされる。幼いころから常に短くしていた髪は、ひと月近くの放置のおかげで耳のふちまで伸びてきている。緑色がより目立つのではないかと不安になるが、鏡はなく、水も濁っていてよく確められなかった。
 ようやくの開放の後に渡された服は、一枚布をほんの少し加工しただけの簡素なもので、下着も身に着けさせてくれない。手櫛で髪を整えながら、情けなくてまたうなだれた。全身は清潔に整えられたが、厚い垢を剥いたところで出てくるのは貧相な体である。風が吹けば飛びそうな、という表現は今の自分のためにあるのだと考えずにはいられない。
 しかも、戻ってきた頭首はペシフィロを後ろ手に縛った。縄の先はしっかりと彼が握って捕まえている。逃げるなということか。逃亡をはかったところで他に行き場はないというのに。はかされた靴は大きすぎて、うながされるがまま引きずって歩くと、完全なる奴隷の姿になった。
 ああそうか、こういうことかと実感する。手紙でのやり取りをして、逢いたいと互いに望み、その時を夢見てきた。だが所詮、ペシフィロは拾われた敵国の変色者であり、彼女は身分の高いヴィレイダの女である。はじめから、まっとうな関係を望むことが間違っていたのだ。
 失望に呼応するかのように、現れた空も雲に覆われていた。今夜は月も星もなく、小屋を出て歩いても周囲の景色がわからない。だが、建物も木々もないおそろしく広い庭なのだろう。遠くから幅広い風が吹きつけては、力強くペシフィロを傾けた。今にも消えそうなランプの火が自分の気持ちに見えてきて、むき出しの足がすくむ。
 現れた屋敷を見たときに、ペシフィロの火は完全に消えそうになった。廃屋かと考えた。こちらは、今は使われていない別棟か何かなのかと。枯れたツタが壁を覆い、ひび割れのように見える。木戸を重ねられた窓は壊れているものもあり、蜘蛛が巣を作っていた。完全なる幽霊屋敷だ。それなのにスーヴァは錆びついた扉を開けて、頭首とペシフィロを先に行かせる。悪い夢か、それとも化かされているのかと脳みそを転がしながら、ペシフィロはあまりにも静かすぎる屋敷の中に足を入れた。まだ、風があった方がましだ。完全なるしじまに、耳の奥で空気が膨らむ。
 喋ることは許されなかった。警告はなかったが、経験で学習している。話したところで返答はないし、泣き言しか呟ける気がしない。ペシフィロは、ただ歩いた。長い廊下は石床をむき出しにしていて、筒型の空間はほこりと蜘蛛の巣にまみれている。そして、屋内とは思えないほど寒かった。どう堪えようとしても歯が鳴るのを止められない。先は見えず、まるで突き落とされるために崖に向かっている気分だ。
 空気が変わったのは、二つ目の角を曲がったときだった。突然、やわらかな木漏れ日が差し込んだのだ。驚いて目をみはると、かすかなそれは奥の部屋の明かりだった。扉を開けると温かい空気と共に光がとろりと体をなめる。ペシフィロは花に誘われる蝶の動きでそこに入った。
 春が、訪れたのだと感じた。その部屋の中だけ一足早く来たのだと。
 暖かい色で描かれた草花の壁紙はいくつものランプに照らされ、暖炉の火がそれをさらに明るくしている。磨き上げられた調度品は適切な位置に据わり、生まれたときからこの場所に居るかのように部屋に馴染んでいた。指示されて靴を脱ぐと、絨毯のやわらかさが冷えた足を慰めてくれる。質がいいのだろう、すべりそうなほどに触りがいい。
 ペシフィロの常識では信じられないことに、この部屋は入り口に過ぎなかった。扉で繋げられた奥の部屋へ、奥の部屋へと進むたびに新たな驚きが待っている。調度品も、壁紙や全体の色も、ひとつずつ丁寧に考えられているようだった。ある部屋は初夏の心地よい風を思わせる。またある部屋は深い森の奥のように落ち着いた色をしていた。それぞれの部屋では違う香が焚かれ、扉を開くたびに夢の中に迷い込む思いがする。贈り物の箱を開ける子どもの顔で部屋を渡り、とうとう、最後の扉に行き着いた。
 頭首が、扉の前で鈴を鳴らす。ヴィレイダ語で「どうぞ」と答える女の声。ペシフィロは忘れかけていた想いに心臓を浮き立てた。かろやかな響き。あの時、夢で聴いた歌のような。
『薬を、持ってまいりました』
 まだ聞き取りは不完全だが、薬という単語が聞こえて緊張がさらに高まる。待ってと叫ぶ暇もなく、入り口は開いてしまった。甘い、かすかな香りが鼻をくすぐる。それだけでは隠しきれない消毒液の匂いも。
 寝室らしく照明を抑えた部屋の中央には、ペシフィロが使っていたものの何倍もある寝台が、主役として据わっている。側面にはやさしい色の布で覆われた階段が置かれていた。二段しかないが、寝床にそんな道具がついているのなんて見たことがない。天蓋からはうっすらと透ける紗の幕が何重にも下ろされていて、中にいる女の姿は明るい影になっていた。
 ペシフィロは前後の状況をすっかり忘れて声を上げる。
「お姫さまベッドだー!」
 ほう、と暖かな息を吐き出して、そこでようやく我に返った。中にいる“お嬢様”が、不思議そうに首をかしげている。頭首がそこに近づいて、(あっ、あっ、訳さないで)と思うのをよそにヴィレイダ語で解説した。かろやかな笑い声。春の音に聞こえるそれは、赤面するペシフィロの肌をくすぐった。もう、消えてしまいたいと燃えつきてしまいそうになるが、縛られていた縄はスーヴァによって取り外される。さあ、と言うかのように、寝台の幕がわずかに引かれた。
「中へ」
 頭首に言われるまでもなく、やるべきことはわかっている。ペシフィロは踵を返してしまいそうな足を、一歩ずつ寝台へと導いた。
(どうしようどうしようどうしようどうしよう)
 中にいる“お嬢様”の影は、揺らぎもせず待っている。
(無理だってでも逢いたいそこにいるどうしよう格好悪い顔おかしくないか表情は)
 ペシフィロは階段に足をかける。
(泣きそうになってないか笑えるかどうしようどんな顔でも無理すると引きつるし)
 切れ間のように開いた幕に手をかけて、首をかがめる。
(格好いい現れ方ないか見られてる見られてる筋肉ない子どもみたい失望されてる)
 頭を入れても前を向くことができず、ほんの一歩だけ上がりこんで座った。いつもならば片膝を立てるのだが、この服装では下半身が見えてしまう。ペシフィロは女のような座り方で、服の裾を膝頭に押しつけた。
(恥ずかしい情けないどうしよう見るな見るな頼むからやめて見るな見るな見るな)
 背中で、幕が閉じられるのがわかる。呼吸だけで揺れそうなほどやわらかい壁なのに、それだけで完全なる個室に閉じ込められた気分だった。腫れるほどに磨かれた首筋がちりちりとむずがゆい。
(なんて言おう初めましてなんだっけなんて言うんだっけどうしようわからない)
 離れた場所に座る彼女の反応はなく、踏みつけるシーツが動くきざしもない。
 ペシフィロは、目を閉じて数をかぞえた。十、九、八、七、六、五、四、三、二、一。
 水面に上がるがごとく勢いづけて顔を上げ、目を開ける。
 真っ先に見えたのは、茜色の頭だった。落ちていく夕陽に似た、いかにもやわらかそうな髪が力なくしだれている。それしか、見えない。彼女もペシフィロと同じくうつむいていたのだった。
 見られていたわけではないことにほっとして、彼女が動くのを待つ。だが、“お嬢様”はその細い首を傾けたままぴくりともしなかった。
「あの……」
 水に触れたかのように肩が揺れる。随分と、薄い体だ。病に冒されているからだろう、寝間着から覘く首や手は骨を浮かび上がらせている。抱きしめるとそれだけで壊れてしまいそうなはかなさ。
 膝元にかすかな響き。彼女が、その弱々しい手でシーツを握ったのだ。皺に引き寄せられる思いで、ペシフィロは一歩動いた。枕元に座る彼女のもとに、そうっと近づいていく。気配を察した彼女が顔を上げた。
 にじり寄る膝が止まった。心臓すら歩くのをやめた。
 透き通る蜜色の瞳が、ペシフィロの眼を見た。驚きに開いたそれが、ゆっくりと、うつくしいものをみつけた緩みに変わる。こわばっていた彼女の頬はやわらかい微笑みに変わり、かすかに、暖かい息をついた。
 その後で我に返り彼女は慌てて下を向く。それだけでは収まらず、せわしなくあちらこちらを向いては耳の先まで赤くした。ペシフィロもまったく同じ顔色できょろきょろと視線を回し、最後に、また彼女の元にたどりついた。
 彼女もまた融けかけたろうそくのように、今にも消えてしまいそうになりながら、おずおずとペシフィロを覗く。ちら、と緑色の瞳を見ようとしては、恥ずかしげに視線を外した。ペシフィロもまた同じことを繰り返している。彼女の顔立ちのひとつひとつ、ヴィレイダ人らしく高い鼻筋や、まばたきと共に揺れる睫毛、燃えそうな熱をそのままに伝える肌に、少し小さめのくちびる……そういったものを確かめては、また、恥ずかしくて下を向く。
 だが、もっと見たい。もっと、よく知りたい。同じ思いに引かれるがまま二人は顔を見合わせ、そして、離せなくなった。まるでこの位置が正しくてそれ以外は許されないとでもいうかのように、そのままの姿勢で見つめあう。
「あの」
 はじめに口を切ったのは、ペシフィロだった。ここにきた目的を思い出したのだ。だが、それ以上話すことができない。今日のために言葉を覚えてきたはずなのに、書き連ねた文字列は忘却へと沈んでいる。ヴィレイダ語が出てこない。出てきたとしても、「始めませんか」とはとても言えない。
 始める。想像してまた赤くなった。そうだ、今から、彼女を。
 それはとてつもなく幸福なことに思えたが、同時に険しい道のりだった。自覚したところでペシフィロは緊張に震えていく。頭の中では、ああして、こうして、と様々な工程が描かれるが緊張で手が動かない。拳とシーツに押し込めるが、それでも、震えが止まらない。
 手の甲に彼女の指が触れて、心臓がこぼれ落ちそうになる。荒れのない、子どものようにやわらかな手のひらが、赤茶けた紋様に寄り添う。彼女はそっと身を寄せると、ペシフィロの肩に囁きかけた。
『少し、こうしていて』
 思考停止の頭でも理解できる、聞き取りやすい話し方。彼女はうつむいたままペシフィロの手を包んだ。
『震えが、止まるまで』
 彼女の手も震えている。触れ合う肩が、今にも折れてしまいそうな腕が、子猫のように震えているのを感じてペシフィロは彼女を抱きしめた。そっと、壊れやすいものを包むしぐさで。
『あ、あの』
 腕の中で息を詰めた彼女があえぐように囁く。
『は、初めて……だから』
『はい』
 その通りですというつもりで相づちを打ち、止まる。彼女は泣きそうな顔で赤色の海に沈んでいる。恥ずかしくて死にそうだというように。
『初めて?』
 もはやその髪よりも赤くなった彼女は、こく、とうなずいた。
 完全に、ペシフィロに身を任せる姿勢で待っている。まさかとは思ったが疑う余地は見られなかった。十年早く生まれた彼女に、ペシフィロはおそるおそる告白する。
『僕も、初めて』
 えっ。と、声なき声が見えた。顔を上げた彼女は、困ったように首をかしげる。
『あら……。どうすればいいか、知っている?』
『だ、だいたい』
 嘘偽りなく答えると、彼女は決心に口を開いた。
『じゃあ、教えて頂戴』
「えええええ!」
 思わず出た素直な声に、彼女がびくりと肩を揺らす。
「どっ、えっ、ええと、あの」
 母国語になっていることに気づいて、慌てて頭の辞書をめくった。
『あまり、知らない。自信、ない。知ってる、は、少しだけ』
『私もよ。少しだけ知っているし、あまり自信はもてないの』
 流れるように話す声から戸惑いが消えている。彼女は姉のような顔になり、一言ずつ言い聞かせる。
『ねえ、こうしましょう。私の知っていることを教えるわ。だから、貴方が知っていることを、私に、して』
 はい、とただそう答えるしかなかった。二人にはもうこれ以外の道がない。先ほどまでの緊張は大分ましになっていた。ペシフィロは、何とはなしに覚えてきた知識を順にさらっていく。
 とりあえずここからだろう、と口付けをするために尖った頬に指を沿わすと、止められた。
『ちょっと待って。あ、あのね、お願いがあるの』
 落ち着いていた彼女の様子は、また、少し初めに戻ったようだ。燃えつきてしまいそうな様子で、途切れがちに言葉をつなぐ。
『貴方にとっては、とても勝手な話に思えるかもしれないけれど、でも、こんな機会いままでなくて、だから、その……迷惑でなかったらで、いいのだけど』
 決心をしたようにうつむいていた顔を上げる。
 彼女は、熱にうるむ瞳で告げた。
『私と、恋をしてくださらない?』
 理解をするまでの、間。
 その後は工程など吹き飛んで彼女を押し倒している。
「もう、してる」
 呟きは、赤らむ首筋に消えた。







 終了と同時に引き剥がされたかと思うと布に包まれ、声を上げる余裕すらなくいくつもの部屋を越える。たちまちに懐かしき小屋に戻り、硬い寝床に放られた。
 我に返ったペシフィロは、打ち付けた腰をさすって叫ぶ。
「あっという間だった!」
 頭首は既に部屋にいないが、スーヴァが濡れふきんを投げてくれた。
「はやっ、早くなかった!? ねえ早くなかった!?」
 固く絞られたそれをさらに引き握りながら騒ぐ。余韻を感じる暇もなかった。それ以前にあっという間であれでいいのかと混乱する。
 服を持ってきたスーヴァが、決して目を合わさないようにして言った。
「じきに、慣れます」
「慰められた!」
 彼らしくもない発言に衝撃を隠しえない。あああやっぱりと頭を抱えて、裸のまま背をかがめる。だが言わずにはいられなかった。
 今夜はいくつもの階段を上ったが、何よりも実感したことがある。
「見られてても大丈夫なもんだね!」
 というよりも、控えていた二人のことをすっかりと忘れていた。だからこそ突然現れた頭首に呆然としたのだが。スーヴァは、早く服を受け取ってくれといわんばかりに震えている。ペシフィロはそれにも気づかないまま、わあわあと大声ではしゃいだ。


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