「いやあ、久しぶりに染めた染めた」 言ってはみたものの誰からの相づちもなく、ジーナは左右を見渡して、所在無く前を向く。 「大分色も馴染んできたな。髪はともかく、肌はカリアラらしくなった」 なあ。と呼びかけるが、隣に並ぶハクトルもシラもどちらも反応してくれない。二人とも、ただぼんやりと前方を眺めるばかりだ。つまらなく息を吐き、ジーナもまた彼らと同じものを観察することにした。 やわらかな陽が差し込む執務室の窓辺では、カリアラとサフィギシルが朗らかに語り合っている。先日までのぎこちなさはどこへ行ってしまったのだろう。サフィギシルは夢中になってカリアラに話しかけ、カリアラもまた嬉しそうに相づちを打っていた。かと思えばカリアラが新たな話題を持ち出し、サフィギシルは身を乗り出して彼の言葉を聞いている。時おり、声を上げて笑ってはじゃれつくように頭を叩いた。 「うわ」 思わずうなるハクトルに、同調せずにはいられない。ジーナはわからないまま呟いた。 「なんで、あんなに仲良くなってるんだろうな……」 数日前までは考えられなかった光景だ。いきなり二人で絵の具まみれになったかと思えば、彼らはその日からずっと親しく打ち解けている。 近寄りがたく避けた場所まで届く、幸福に満ちた笑い声。一体何が楽しいのかとジーナは耳をそばだてるが、何度会話を聞いたところで、彼ら二人以外には内容がわからなかった。意味不明なわけではない。あまりにもたわいがなさすぎて、どこで笑っていいものかまるで理解できないのだ。 「姉ちゃん。食肉の話って、そんなに面白かったっけ」 「さっきの窓枠の話も含めてさっぱりだ」 彼らには、彼らにしかわからない世界があって、カリアラもサフィギシルも互いにそれを確かめては喜んでいるらしかった。語らう言葉はなめらかに流れていき、滅多に止まることがない。こうしてみると、今までの二人には、まっとうな会話ですらろくにできていなかったのだと傍から思い知ってしまう。ハクトルに言わせると、“絵の具まみれ”以前の二人の会話は、ひっそりと歌う肉声のそばで打楽器を鳴らすようなもの。今は仲良くひとつの歌をきれいに奏でているという。確かに、遠くから聴いていると、上手く噛みあう彼らの声は穏やかな音楽のようだった。雑音など入る隙もない、完成されたひとつの秩序。透明な光の環が二人を包み込んでいる。 ハクトルが爽やかな笑顔でジーナを誘う。 「姉ちゃん。これから一緒にビジスの墓を爆破しに行かない?」 「なんで!?」 「骨でもいいからぶっ壊したいときってあるよね」 「ないないない。第一、あれは今は墓碑だけで、中身は……」 ぶうぶうと鎖を鳴らす弟をたしなめながら隣を見ると、シラはさっきと同じ顔でカリアラたちを眺めている。彼女はこの数日ずっとこんな調子だった。時おり、眩しそうに目を細める以外は特に動こうとしない。ジーナはどうしたものかと首を掻き、またカリアラに目を戻す。 「髪だけは前よりもきらびやかになったが、まあ、時間が経てばこっちも自然に汚れるだろう。肌は結構初めからカリアラらしかっただろう? 協会中の染料をかき集めて染めたからな」 全身くまなく色まみれになっていたのだ。表面の洗浄だけでは追いつかず、カリアラもサフィギシルも、ほとんどの皮を取り替えるはめになった。一般的な白人種様のサフィギシルとは違い、カリアラの色相はどの民族のものとも微妙に異なる。白すぎてはいけないし、ただの黄色だけでもない。どことなくほこり色をしたそれを再現するには、しばらくの時間がかかった。 「本当は糸から染めて織るのが一番だが、今から外注するとえらく時間がかかるんだ。いや、それにしても、祭に間に合ってよかった」 「ありがとうございます。おかげで助かりました」 よし来いとジーナは続く応酬を待つ。だがシラの発言は素直なままで、ねじまがる様子はない。 「……嫌味はどうした?」 「え? ああ、そうですね。なんというか、思いつかなくて」 「まあ、気持ちはわからないでもないな」 初めは彼らに嫉妬していたシラも、今となってはぼんやりと眺めるしかないのだろう。たった一声かけることすら邪魔になりそうな輪の中で、カリアラも、サフィギシルも、心から楽しそうに笑いあっているのだから。 「よかったなあ」 「よかったです」 「……ここ、泣くところ?」 滲みかけた姉にハクトルが袖を差し出す。まだこぼれるほどではなく、すんすんと鼻を鳴らしながらジーナは眉間をきつくつまんだ。 「だって考えてもみろ。あの顔で、友だちと仲良く笑ってるなんて、それだけで、もう……」 「私は泣いていませんよ。眩しくて目が開かないだけです」 「重症だ」 何度目とも知れない感動についていけず、ハクトルがつまらなく鎖を鳴らす。そのかすかな音すらかき消すようにカリアラたちがどっと笑い、遠目に見る母親たちは、また小さく奥歯を噛んだ。 なんだか、シラに呼ばれた気がしてカリアラは振り返る。だが彼女は何かを堪えるように歯噛みしていて、カリアラを求めているわけではなさそうだった。 「違った。でもな、本当にそうなのかはわかんねぇんだ。シラもな、卵だから」 「ああ、シラもそう見えるようになったんだな」 「そうなんだ。前は、全部わかってたのに」 シラの考えていることは何もかもわかっていた。まるで自分の一部であるかのように、筒抜けなのだと思っていた。彼女は、誰よりも近い存在で、群れの一員だったから。シラについてだけではない。わからないサフィギシルもピィスもジーナも、完全な群れになればすべて分かり合えるのだと、簡単に考えていた。だが、それは間違いだったとカリアラは身をもって実感している。遠巻きに並ぶシラたちが何を考えているのかなど想像もつかなかったし、ジーナも、ハクトルも、それぞれ別個の塊に見えた。 まるで、大きな卵のようだ。魚や鶏のものではなく、国王からもらった画材に似ている。あの黒色の卵のように、誰の中にも赤い血が潜んでいるのだろう。もしかすると、予想しているのとはまったく別の色があるのかもしれない。どんな中身を持っているかは、割らなければわからないのだ。 他者を見て、ああ、あれはおれではないのだと思うたび、カリアラは心細くなる。これまでは、たとえ自分の体が欠けても、他の者が代わりを務めてくれると考えていた。カリアラの頭がどんなに悪くても、字がうまく書けなくても、サフィギシルが上手にやっているのだからそれでいい。そう考えるのが、カリアラにとっては当たり前のことだったのだ。 だが、今は違う。サフィギシルはカリアラではないのだから、彼がどんなに上手でもカリアラには関係ない。カリアラは、カリアラとしてひとりでやっていかなければならない。 そう思うと、まるで宙に浮いているようで、どうしてもサフィギシルに話さずにはいられなかった。 「前は、ジーナとハクトルはくっついてるように見えたんだ。でもな、今はひとつずつバラバラになってる。きょうだいだから、糸は太く繋がってるけど、それは殻の中から伸びてるだけで、卵は違う塊なんだ」 「血が繋がってると、その糸は太くなるのか?」 「うん。あのな、殻は本当は見えないんだ。おれが言ってるだけだから。でもな、糸は本当にある」 「眼鏡を外すと見えるんだよな」 「そうなんだ」 熱心に聞いてくれるのが嬉しくて、カリアラは頬をほころばせる。目に映る糸が何なのか、サフィギシルにはまだ解明できていない。だが、答えがわからなくとも、話を聞いてもらえるだけで安心できた。これまでのように投げ出してしまったりなどせず、サフィギシルは真剣に考えてくれている。彼がこんなにも親身になってくれるとは、思いもしていなかった。これも、割らなければわからないことのひとつだ。 サフィギシルが口を開くと、彼の殻にひびが入る。放たれる言葉はすべてサフィギシルの中身であり、外側からは見ることのできないものだった。その深部に何があるのか正確にはわからないが、少しずつでも彼を知ることはできる。画材を割ってしまったあの時、暗色の内部に予想外の色彩を見つけたのと同じように、カリアラはサフィギシルが話すたび、彼の言葉や表情から新しい色を見つけた。 直接中に触れることができないのはもどかしいが、こんな生き物だったのかと改めて知る毎日は驚きに満ちている。話をする。表情やしぐさから相手の思いを想像する。たったそれだけのことが何よりも楽しくて、カリアラはサフィギシルと喋ってばかりいた。他の者、例えばシラと話すのも面白い。ジーナも、ハクトルやアリスにしても同じだ。気楽に語ることができたし、歓びが止まらなかった。だが……。 「やっぱりここだ。カリアラ! 特訓するって言っただろ!」 突然現れた姿にカリアラはびくりとする。駆けてきた息もそのままに、ピィスが部屋の奥へと進み、カリアラの腕を取った。 「なんで約束守らねーんだよ。ほら急げ、オレこのあと用事があるんだから」 「い、いやだ」 「嫌だじゃない、しなきゃ何も進まねーだろ。ハイさっさと中庭行く」 「サフィ、と、止めてくれ!」 蒼白となってすがりつくが、頼みの綱はひらひらと手を振るばかり。 「頑張って遊んでこい。いつまでも逃げてばかりじゃ、自覚もままならないからな」 「何の話だ!?」 読みきれないままに引きずられて、強引に廊下まで連れ出される。 遠景となった部屋の奥で、俺だって何度も閉じ込められたんだ。と、サフィギシルが呟いた。 |
「ったく、なんですぐ逃げようとするんだ。いいか、今離れたらななに捕まえてもらうからな」 カリアラはぎくりとして身をこわばらせる。まさに今、掴まれた腕を振り払おうとしていたのだ。もはや逃げる術はないが、大人しく応じたところで鼓動が治まるわけでもない。どうしてなのかはわからないが、ピィスの傍にいるだけで心臓が落ち着かないのだ。このままでは死んでしまうかもしれないのに、サフィギシルはどうして助けてくれないのだろう。後でじっくりと話を聞きださなければいけない。カリアラは口許を歪めて歩いた。 「オレのこと嫌いなのはいいんだよ。でもそれで失敗したらどうすんだ。本番まで時間がないんだぞ」 特訓をしなければいけないのはわかっている。何度みんなで練習しても、カリアラはピィスの歌についてだけ答えることができなかった。業を煮やした彼女が練習を求めるのも、当然のことだろう。だが、カリアラはこの「特訓」がひどく苦痛でならなかった。 「よし、じゃあ適当に歌うから。ちゃんと聞いてろよ」 中庭の中央でピィスが姿勢を整える。カリアラは、その真正面に立てと命じられた。少しでも腕を振れば、彼女に当たってしまう位置だ。あまりにも近い距離に、どこを見るべきかわからない。 こうして繰り返し歌を聴いていれば、合唱の中でも、どれがピィスの声なのか判るようになるというのだろう。だが、カリアラの耳はいつだって彼女の歌を掴んでいるのだ。聴こえてはいるのに、それがどんな曲だったか、どのような色をしていたかがすぐにわからなくなってしまう。しかも、ピィスの歌は熱いのだ。こんなにもすぐ傍で聴けば、耳も肌も赤くただれて焼け焦げてしまうだろう。 拷問のような仕打ちに、カリアラは気絶しそうなほど青ざめてピィスを見下ろしている。彼女もまた、巨大な卵のひとつだった。一体何を考えているのかわからない、不気味にすら思える塊。 胸元と言えるほど近くでピィスが深く息を吸う。 口を開いたその瞬間、暗色の殻に、ひびが入った。 まばゆく光る歌声が隙間から吹きあふれる。それを浴びて固まるカリアラの前で、声量はさらに増し、幻の音を立てて殻が剥がれ落ちていく。次々と開く隙間から濃密な波が押し寄せて、カリアラの全身を包んでは流そうとした。 歌の波に溺れながら理解する。これは、ピィスだ。彼女の内側から放たれる、ピィスレーンそのものだ。身動きのできない体に彼女のなかみが次々と浴びせられて、呼吸すらままならない。だが、苦しくて仕方がないのにカリアラは焦がれていた。もっと近くで触れたいと、心から望んでいた。ああそうだ、合唱の時と同じだと頭の隅で理解する。皆で歌っているときも、ひたすら彼女に触れたくて、ただそればかりになるのだ。こんなにも近くにいるのにまだ足りない。触れたいのは、体ではなく。 打ち震える想いのまま、腹の底から声を出す。 音が、触れた。 カリアラはとっさに彼女の手を握りしめる。体も声もびくりと退くが、それでも構わず彼女の歌に音としてまとわりついた。放たれる歌は糸となり彼女の声を手繰っていく。眼鏡越しにも視えるそれはまだ細く、ふとしたことですぐに途切れてしまいそうだ。落ち着きのない鼓動が邪魔をして、音量が定まらない。だが彼女を離すことはできず、なんとか強く絡め取ろうと息を吸った。 深く、川底から立ち上がるようにしてカリアラは声を伸ばす。萎縮していたピィスの背筋がぴんと張り、彼女は負けじとつま先立ってさらに高い声を出す。両手を握り返されてどきりとするが、指からも伝わる力を超えるため、カリアラもそれ以上に強く声を張った。 もはや本来の旋律を離れてピィスの歌が走り出す。甲高く鳥のように舞ったかと思えばすぐさま低音へと沈み、カリアラを沼の底へといざなう。それでは、とカリアラは彼女の声を大きな手で包み込み、足取りを奪いながら右へ左へ掻き回した。方向を失ったピィスは突然威嚇のように吠え、驚いたカリアラが怯んだ隙に再び高く駆け上がる。 先頭を奪ってはまた奪われる繰り返しの狂想曲。もはや何の歌から始まったのか思い出すこともなく、二人は意識をぶつけあった。 これは闘いだ。怯めば相手に呑まれてしまう、命をかけた殺し合いだ。 少しでも多く伝えようと互いの額をすり合わせる。いつしか指は組み合わされ、彼女の汗と彼の気配を握りつぶそうとしていた。混じりあう声と共に意識までもが絡み合う。全身に寒気が走り冬の水に落ちたようだ。それなのに体の芯は異常な熱を持っている。めまいがして息が荒れる。だが歌をやめたくない。まだまだ、もっと。 争いながら高音に昇り詰めれば、天上から光が降り注ぐ。金色の雨を一身に浴びながら、カリアラは、二人のどちらでもない声が生まれるのを聴いた。 それがカリアラなのか、ピィスなのかわからなくてぞくりとする。おそろしい。だが素晴らしく気持ちがいい。 彼と彼女のうたは絡み合い天高く昇りながら、二人でひとつの透明になる。 何もかも忘れて、彼らは体の隅々を声として外に放つ。すべて出しきらなければいけない。余力を残して勝てるほどこの相手は易しくない。最後のひとかけらまで歌として息を吐く。握り合う両手が震える。痛いほどに爪を立てているのに、そうせずにはいられない。 そして意識が絶えるほど高く音を伸ばしたところで、二人の息は同時に切れた。 しばらく、地面にへたりこんだままどちらも動くことができない。何が起こったのか、カリアラにはわからなかった。おそらくピィスも同じだろう。共有する混乱のまま、カリアラはピィスの体を抱き寄せる。 大人しく従う彼女の頭に顔をうずめる。もう、殻は閉じられてしまっただろうか。少なくともさっきまでのようにひとつになることはできず、それが歯がゆくて触れずにはいられない。 やわらかな彼女の肌は熱を持ち、荒ぐ息に揺れている。汗ばんだ皮の薄さに目が眩む。この無防備な皮膚を噛みちぎれば、殻を壊せるのだろうか。熟した実を剥くのと同じだ。歯を立てればそこから熱い血があふれ、昂るこの体内を充分に満たしてくれるだろう。 「……カリアラ?」 呼ぶ声があまりにも甘くてどうすればいいかわからなくなる。カリアラは必死に彼女を離そうとした。だが、手が動いてくれない。それどころかさらに強く抱きしめる。 垣間見たまばゆい光が忘れられない。星空の下で見つけたそれと同じ、触れれば焼きつくされそうなおそろしく強いひかり。彼女の芯は彼にとって太陽と変わりなかった。 カリアラはうつろな頭で彼女の熱い肌に触れる。望むものはこの中にある。かぶりついてぐちゃぐちゃにして、取り込んでしまいたい。ひとつ残らずからだに入れて、おれのものに。 (ピィス) 白く霞む思考の中で、ひとつだけくっきりと形取られた意志がある。 (お前が欲しい) 文字で表わされるそれは今までの意識とは違うことに、カリアラは気づいていない。 ただ衝動を堪えるために、彼女の腕に爪を立てる。 「痛い。痛いよ」 (うん) 「なんだよ。離せって」 (わかってる。わかってるんだ) どうすればいいのだろうか。このままでは本当に彼女を食い殺してしまう。そんなわけにはいかないのだ。だが腕の中のピィスはあまりに非力で、甘い匂いのする肌がすでに頬に触れていて、噛みついて力を込めるだけでこの体は満たされて……。 首筋に歯を立てかけたその瞬間、急激な力で襟首を掴まれて、カリアラは宙に投げられた。 「うわー!!」 ピィスの悲鳴も遠ざかり空と地上が回転する。顔面から植え込みに着地したところで、後頭部に煉瓦を叩きつけられた。 「な、ななー! ばかー!!」 彼女の罵声を聞くまでもなく、相手が誰かわかっている。カリアラは飛び上がり、立ちふさがるななに礼をした。 「ありがとうございました!!」 平伏に近いそれにも、ななは顔色ひとつ変えない。これ以上攻撃するつもりはなさそうだが、カリアラとしてはもっと手酷くされた方が安心できた。もう少しでピィスを食い殺すところだったのだ。彼女は混乱しているが、目を覚ましてもらえた感謝はちゃんと伝えなければならない。 「またよろしくお願いします!」 「なんでそんなに低姿勢!?」 再び深く頭を下げると、二発目の煉瓦が頭上から落ちてきた。しっかりと痛みを受け止めて、カリアラは息をつく。だいぶ、正気になれたようだ。もう危険なことはしないと心から断言できる。 「危なかった……」 それにしても、一体何が起こったのだろう。先ほどまでの衝動が説明できず、カリアラは胴を示す。 「なんかなー、へんなんだ。息が苦しくてな、ここがぎゅるぎゅるってなってるんだ」 「それは腹が減ってんだろ」 「あー! そうだ、それだー!」 ピィスに言われて合点がいく。彼女を求めたのも、すべて空腹のせいだったのか。この落ち着かない気持ちも喪失感も、食べ物が欲しいせいなのだ。そうとなれば話は早い。 「あのな、おれサフィに飯もらってくる。もう特訓終わっていいか?」 「しょうがないな。オレもそろそろ伯父さんのところに行く時間だし、今日はここで解散だ。なな、もう変なことするんじゃないぞ! ごめんな」 謝られるが、カリアラとしては逆に感謝しているのだ。大丈夫だと答えると、ピィスはななの袖を引いて去っていった。その後ろ姿を見ていると、どうしてだろうか、ますます苦しくなってしまう。 カリアラは胸のあたりを掴むと、はあ、と息をついた。 「……ぎゅうってする……」 |