しゃくり上げる湿った声が、病室に篭っていく。満ち満ちるそれの中央で、ピィスはペシフィロの臥すベッドから離れようとしなかった。目のふちどころか鼻の下まで赤くして、彼女は父の布団に張りつく。 「大丈夫ですよ。だから、そんなに泣かないで」 「だっ、だって、だって、だって」 また涙が盛り上がる。呼吸すらきれぎれになりながら、ピィスは再び嗚咽に沈んだ。ペシフィロは娘の頭を撫でてやるが、それはますます彼女の涙をあふれさせる。 「お、おとおさああん」 「はい、ここにいますよ。大丈夫、いなくなったりしませんから」 ペシフィロもまた泣きそうな顔で彼女に触れた。どうすれば悲しまないでくれるのか、と顔の端々に寄る皺が語っている。必死に立ち直ろうとする父娘には近づけず、心持ち離れた場所で、サフィギシルが呟いた。 「水飲んだほうがいいんじゃないかな」 「いらないよぉなんだよそれ」 小声だが聞こえてしまったのだろう。ピィスがよろけて振り返る。 「お前が悪いんじゃないかぁ。おまっ、お前が毎日忙しくさせるからあ」 殴りかかる力もなく、ぼろぼろと涙をこぼしながら訴える。だが他に向いた憤りは内へと戻り、ピィスは床にへばりつく勢いでペシフィロに縋った。 「オレも悪いよおお。ごめんね。ごめんね。きょ、今日から掃除全部やるから。飯も作るし、洗濯も、全部オレがやるから」 「いいんですよ。大丈夫、誰も悪くないですから。サフィギシルも気にしないでくださいね」 「いや、気にはするよ。俺にも反省させてよ」 「そうだ。皆が頼りすぎたのは事実なんだから、そこはきちんと考えていかないと」 心配しながらも近寄れないジーナが、悔しげに腕を組んだ。 「お前は何でもそうやって一人で抱え込もうとする。元々、そんなに丈夫でもないんだ。つらいならつらいと言え。どこかで吐こうとしないから、胃に穴が開くんだ」 ペシフィロは、ただうなだれるしかない。弱く落ちた肩に背中に、自己嫌悪と不甲斐なさが貼りついているようだった。離れようとしないピィスに触れ、途切れなく流れる涙を指で拭う。 ピィスに良い報告が聞こえるよう、シラは片づけをする医者に尋ねた。 「でも、まだ治療の足りる状態でよかったですよね。問題なく治るんでしょう?」 「はい。内臓の傷自体はそこまで酷くありません。もちろん、しばらくは安静にしなければなりませんが。それよりもむしろ体の衰弱が激しい。よほど栄養が足りていなかったか、睡眠時間が少なすぎたか……。お心当たりは?」 説明は逆効果となったようだ。顔を上げたピィスは、さらに涙を増やしてしまう。 「ごめ、ごめんなさ」 「いいんですよ。あなたは悪くありません。私が、勝手に忙しくしただけなんですから」 もうどれだけ同じ問答を繰り返しただろう。ジーナが終わりを求めて告げる。 「堂々巡りだな。まあとにかくいい機会だ、しばらく休め。その間の仕事は、責任を持って我々で分担するから」 「でも」 「いいから、そのぐらいさせてくれよ」 断れば、サフィギシルまで泣きだしてしまいそうだった。 ペシフィロは取り囲む皆を眺める。ピィスも、サフィギシルも、ジーナも、シラまでもが納得してうなずいていた。だが、手を差し伸べられるほどに彼の顔には疲労が浮かび、降り積もる重みによって老けていく。カリアラだけが、それをじっと見つめていた。 カリアラはシラの腕を引く。 「なあ。もう、帰ったほうがいいんじゃないか?」 場違いな発言に彼女は戸惑いを見せたが、考えて、了承した。 「そうですね。私たちがここにいると、ゆっくり休めないでしょうし。どうしたの? お腹が空いた?」 「そういえばもう大分遅いな。ピィス、今日はうちに来るだろ」 「や、やだ。ここにいる」 ピィスは怖ろしいものを見た顔でペシフィロにしがみつく。まるで、少しでも離れると、父が消えてしまうのだと考えているようだった。それがわかっているのだろう。ペシフィロは、彼女が怯えないよう、細心の注意をもって伝える。 「心配しなくても大丈夫ですから。今日は、サフィギシルの家に行きなさい」 うなずく前に、ジーナが震える肩を抱く。ピィスは「おとうさん」とかすかに吐いて、支えられながら立った。 「絶対明日も来るからね。ちゃんと休んでなきゃだめだよ。絶対だからね」 「ええ。明日にはもっと元気になっていますよ」 「絶対だからね!」 真っ赤な顔でさらに泣き、ジーナに抱きかかえられながら、ピィスは病室を後にした。 ペシフィロは、誰もいないはずの場所に「お願いします」と囁きかける。壁際に張り付いていた影が、じり、とわずかに移動した。 |
夢も見ないほどに眠りこけるのは、どのぐらいぶりだっただろう。ペシフィロは久方ぶりの感覚に浸されながら、重いまぶたを持ち上げる。病室はすっかりと夜に溶けて、闇の一部と化していた。その、どこだかはわからない場所に、直感として声をかける。 「スーヴァ、いますか?」 「はい」 答えられたことが嬉しくて、つい頬が緩んでしまう。だがみぞおちを穿つ痛みに、すぐさま細い息をもらした。 「いたた……。ピィスは、落ち着きました?」 「はい。よく眠っております」 その言葉に胸を撫で下ろす。泣き疲れたあとは、眠るのが一番いい。 今ではななと呼ばれる使影は、昔のように、他者からは見えない姿を取っている。ペシフィロは賭けとして口にした。 「少しだけ、見えるようにしてくれませんか」 火のついたランプが宙に浮かぶ。紛れていた影が人の形に分離する。空間の一部と化した布を外し、ななは顔をあらわにした。格好としては、昼間のものと変わりない。だが、目をそらした顔立ちには確かな血が通っていた。 思いがけず叶えられた対面に、ペシフィロはすぐには言葉が出てこない。見つめてはいけないと考えながらも、どんな人物になったのかと調べずにはいられなかった。数えてみれば、昔一度別れてから十四年が経っている。その後にも会うことはあった。だがこんなにも間近で見るのは、本当に、久しぶりだ。 ペシフィロは懐かしく彼を眺める。 「……大人になりましたね」 顔立ちが鋭くなった。幼くやわらいでいた輪郭は、男のそれとして骨を浮かべている。いつも怯えていた瞳からは迷いがそぎ落とされ、彼の中に確固とした芯があることを教えてくれる。 目を細めたのは、どこか眩しく見えたからだろうか。ペシフィロは、十四年の時を思う。スーヴァは変わった。だが、自分はどうだろうか。そう自省せずにはいられなかった。 「こうして、あなたの意思があるということは、使影の人たちには秘密なんですか?」 「いいえ。存じております」 「じゃあ、どうして」 周囲に隠す必要がなければ、人形のように動かない演技をする必要はない。疑問として見つめ続けるペシフィロから、ななはさらに顔をそむけた。 「意識を塗り替えられたのは、事実です。人の熱や好意を怖れるよう、記憶の封印と共に施術された。記憶は取り戻しました。ですが、まだ、あたたかいものは怖ろしい」 その頬が青ざめている。揺れる髪が、かすかな震えを明らかにする。 「何も感じない振りをしていれば、誰も近寄ることはありません。人に声をかけられても、聞こえないそぶりをすれば、怖れていると、気取られない。どうか、お願いです。優しく、しないで下さい」 乱れる息に胸を掴む。指先はひどく震えている。 「……でも」 ペシフィロは彼の表情を見て言った。 「打ち明けることができて、少し、ほっとしているでしょう?」 動物が毛を逆立てるように鳥肌が立つ。ななは転びそうになりながら、必死に部屋の隅へと逃げた。想像以上の状態に、ペシフィロは慌てて身を起こす。 「す、すみません。本当につらいんですね。もう隠れていいですよ」 「いいえ」 ななは意を決して顔を上げる。 「今は、平気です」 鳴りそうになる歯をかみ締めて、彼は真正面からペシフィロに向き直った。 布団を握るペシフィロは、爽やかな興奮が胸に広がるのを抑えきれない。 「……感動してもいいですか」 「どうぞ、ご自由に」 許されるならば涙したいが、さすがにそれは遠慮した。 顔が笑うのを止められない。今すぐにでも走り出せそうなほど、気分は軽く浮かんでいる。ここのところずっと抱えてきた重荷が、跡形もなく消えていた。 「ああ、本当によかった。あなたを見つけることはできたし、病気も、痛みはありますが無事でしたから」 「すぐには、治りません」 「ええ、わかっています。数日ではなくても、大人しく治療に専念すれば……」 笑みが、こわばる。想定した状況には不釣合いな真摯さで、ななはペシフィロを見返している。 彼はペシフィロを刺激しないよう、遠巻きに話を始めた。 「医者が言っていたことを、覚えていますか。病にしては、体の衰弱が激しすぎる。内臓に穴が開いたのは、症状の一端でしかありません」 迷いが彼の口を止めた。その逡巡が手に取れるほど、ななは表情をあらわにしている。 彼はためらいを飲み込んで告げた。 「糸を、視たのでしょう」 ちら、と目の端に影が走る。それは今ここにあるものなのか、それとも過去の記憶だろうか。ペシフィロは頬を叩いたが、手のひらに感触はない。幻覚か。だが、ななはペシフィロが何を見たのか知っているようだった。 「よくは憶えていないはずです。あなたはそうして何度も力に溺れかけ、その度に掬われてきた。星のごとく広がる、物質の点を覚えていますか。あなたが、まだ、自覚せず転移の術を使った時のことです」 「……百名唱」 うなずきはしたが、ななはそれについては触れなかった。 「変色者の多くは、皆その力に囚われて死ぬ。生き延びても殆どは正気を失います。以前ここにいたサフィギシルも、同じくして捕まりました。ジーナハット家の次男のように、正常な身体能力を失う者もいる。あなたは、彼らと同じ場所に立たされているのです」 「どういうことですか」 ペシフィロは混乱のままに身を乗り出す。 「わかりません。どういうことですか。あなたの言う力とは、ビジスの力と言われるものなんですか。今いるサフィギシルが、直接に受け継いだとされているものではないんですか」 それならば関係のないはずだった。彼の重荷を減らさなければと、補助をする者の立場で考えていた。 「それに、私が地下の星を見たのは、ビジスに会う前です。おかしいじゃありませんか」 「あなた方は、勘違いをしておられます」 その一言で、彼が、自分たちとは違う知識を掴んでいるのだと知った。 「真実を知らない者たちは皆、それをビジスの力と呼ぶ。ですが、それ自体はビジス・ガートンが生まれるよりも昔からこの世界にありました。遥か古代より、幾多もの人間を壊してきたのです。変色者だけではない。魔力反応に敏感な者。より自然に近い者。彼らは、彼らにしか視えない力に打ち砕かれ、世界へと囚われました」 続けられる説明に頭が息を切らしている。待ってくれ、と置いていかれる先方に手を伸ばしている。構わずに進むななの言葉は、決定的な終着に行き着いた。 「この力に勝ち、望む形で生きることができたのは、ビジス・ガートンただ一人」 取り残されたペシフィロに、彼は事実として宣言する。 「ビジスの遺産とは、力そのものではなく、力を使いこなすための方法です」 本当のことだろうか、と考察せずにはいられない。だが駆け抜けた理屈を追い求めれば、この結論は限りなく真理に近く感じられる。なぜ、彼がそんなことを知っているのか考える余裕はない。なめらかに続けられる説明は、即興で作り上げたとするには、あまりにも完成されていた。 「それがあれば、能力に目醒めた者も自由に逃れることができる。ですが、それには多くの代償が必要となります。ビジスは、あなたが力に囚われないよう心尽くしておりました。その体に走る刺青は、魔力を外に流します。だがそれだけではなく、世界の気配に鈍くなるよう道筋を整えられている。定期的に戦いを仕掛けては、あなたの魔力を発散させた。手ずから食事を用意しては、薬として服用させた。糸があなたの体をかすめないよう、常に見張りを続けていた」 彼の話すひとつひとつが記憶を掘り起こしていく。魔力に体が負けないよう、刺青を入れられた。時には血を流されることもあった。勝手な戦いを仕掛けられ、全身の魔力を放出することもあった。戦いは体力を上げていく。他のものに蝕まれない肉体を作り出す。 ビジスと過ごすようになってからは、滅多に病気をしていない。 魔力に振り回されて、寝込むこともなくなった。気疲れは数え切れないほどにあったが、それでも睡眠を阻害するほどではなく、心配に胃を痛めることも、怖れを抱えることもない。だが今はどうだ。 「そうか」 ペシフィロは呆然と呟いた。 「ビジスはもういないんだ」 知っているはずだった。涙もすべて流しきった。悲しみは使い果たし、むしろ見事な終わりを祝したほどだ。ビジスが世界に消えて二ヶ月。ペシフィロは、初めて彼の死が意味することを知った。 これからは、もう誰も助けてくれない。 「我々には、病の進行を緩めることしかできません。今はご静養下さい。健康を損なえば、それだけ進みが速くなる。あなたはジーナハットの次男とは違う。囚われてしまえば、その体は持ちません」 ななの言葉も遠く、ペシフィロは顔を覆う。そのまま、どこまでも深く枕に沈んだ。 ピィスの泣き声が耳を騒がす。忘れられるはずがない、鮮やかにこびりつく娘の涙。 「……死んでもいいと思っていた」 追いかけてくるそれから逃れたくて、呟く。 「昔は、こんな体は生きていてはいけないのだと考えていた。どんな目に遭っても生き延びてしまう運を、憎らしく思ったこともある。なぜ、その頃ではいけなかったんですか」 息が止まる。叫びたいのを押し殺し、ペシフィロは低くうなった。 「よりによって、どうして今……!」 まぶたに立てた爪が、かろうじて涙をせき止めた。 ピィスの母は、病で死んだ。 四肢の力を失い、日につれて衰弱が進む長い病気だった。 一体どんな因果だろうか。ペシフィロの立たされた症状は、それによく似ているのではないか。 目の前で母親を喪ったあの子に、また同じ絶望を味わせてしまう。 なぜ、こんなことにと呪わずにはいられない。 「今は、お休み下さい」 震える体に触れがたく、遠くから落ちる声。 「すぐに諦めなければいけないほど、深く蝕まれているわけではありません。対策を練る時間はあります」 ペシフィロは、生きているかもわからない目でななを覗く。またどこかに戻るのだろう。彼はランプを消すため、枕元に立っていた。 「最後に一つ、忠告をさせて下さい」 返事も待たず、彼は低く囁く。 「魚には近づかないほうがいい」 ペシフィロは眉を寄せる。彼が知る中で、魚と聞いて浮かぶのは一人しかいなかった。だが、カリアラがどう関係しているのかがわからない。しつこく構われた恨みだろうか。それにしては子どもじみている。 不可解に見上げるペシフィロに、ななは顔を向けず答えた。 「あれは、じきビジスになる」 明かりが消える。病室がまた夜に喰われる。 ペシフィロは繰り返しななを呼んだが、もう応えは返らなかった。 |
「喜んでるのか?」 カリアラはななを覗き込んだ。ペシフィロが倒れた翌日、技師協会は朝から天地を返したような忙しさに追われている。サフィギシルの開催宣言まであと二日。執務室の入り口には、城からの使者が勝手の知れない様子で並んでいる。ペシフィロがいなくなった分、彼らの仕事も危機に瀕しているようだった。 カリアラは、そんな騒がしさには構わずななの絵を描いている。手伝おうとはしたが、誰も話を聞いてくれないので、やるべきことがわからない。だから、部屋の隅に座り込む静かな男を前にして、じっ、と観察しては紙の上に記録した。 「今は、怒ってる。おれが見るのを嫌がってる。でも、昨日より軽くなった」 頬骨に添った筋肉がやわらいでいる。張り詰めていた眉間の気色が変わっている。カリアラは、そのあたりを彼なりにぐじゃぐじゃと描いていく。 「ペシフも、元気になってた。今日はまたおかしかったけど、昨日は、違った」 眉毛を一本一本記しながら、カリアラは紙に語った。 「お前、ペシフと仲直りしたんだろ」 ななは、動かない。描く対象としてはこれほどなくちょうどいい。カリアラはまた彼を見た。嫌そうな肌のこわばりが、増している。 「昨日、病院で、ペシフがお前に『お願いします』って言ってた。みんな、あそこにお前がいたことには気づかなかったけど、おれは見てた。医者を呼べって叫んだのも、お前だろ。みんな、誰だろうって言ってるけど、多分、お前だ」 カリアラはななの声を知っている。たとえ高さが変わっても、聞き当てる自信がある。 ペンを止め、カリアラはななを見つめた。 「なあ。なんでピィスとは仲直りしないんだ?」 答えはない。だが、一瞬だけ眉が動く。みんなは彼のことを表情がないなどと言うが、じっと観察していれば微細な揺れがわかるのだ。カリアラは、さらに機嫌を悪くしたななを描く。 「お前がピィスと仲直りすれば、ピィスは元気になるんだ。ペシフが病院に行って、ピィスはずっと元気がない。でも、お前が喋ればいい。そうすればみんな元気になって、群れが上手くいく。今の群れは、大変だ。だから、元気にしないと」 手が止まる。ななが頭をもたげていた。彼は白い顔を寄せ、カリアラの手元を覗く。 「下手くそ」 耳元で呟くと、ななは巨大な動物のようにゆっくりとその場を去った。 カリアラは、しばらくの間動くことができなくなる。下手くそ、とは、どういう意味だっただろうか。何のことを言っているのか。この絵か? だがこれはみんなが誉める上手な絵で、だから、下手ではない。そう考えても、頭の中では彼の言葉が渦巻いていて、心臓を気持ち悪く震えさせる。 「なあ!」 走り回っていたサフィギシルを呼び止めて、描いた絵を掲げて見せた。サフィギシルは不機嫌そうに目を細めたが、すぐ驚きに丸くする。 「うわっ、お前ものすごく上手いじゃないか!」 「そうだよな。これ、上手いよな」 歪んだ線を何重にも回して描かれた、青インクに潰れる顔立ち。サフィギシルは、顔の形がわかりやすいだの、髪形がそっくりだのと、次々に心からの誉め言葉を紡いでいく。カリアラは得意に笑ってみせたが、まだ、気持ちのもやは晴れなかった。心臓の底にななの台詞がこびりついているのだ。 「しかし、あの人どこに行ったんだ? ったく、手伝いによこされたくせに、何の役にも立たないな」 「ななは役立たずなのか? 群れに邪魔か?」 「邪魔だよ。あの人がいるだけで、色々とやりにくいだろ」 遠くからジーナに呼ばれて、サフィギシルは書類を手に走り出す。 残されたカリアラは他にすることもなく、ただ「ものすごく上手」に描けた顔を眺めた。 「そうか」 |