「えーと、米かパン、米かパン……米でいいか。いいよな、わざわざ焼くの面倒だし」 ピィスはぶつぶつと呟きながら、食糧庫の中を探る。パン生地の作成から始めるのは、面倒という以前にこの二人には無謀すぎる。棚の奥を探してみると、細長い米の詰まった袋が出てきた。その隣には少し小柄な粉袋。開いてみると、きめ細やかな黄色い粉がみっしりと詰まっている。カリアラが背後から覗き込んだ。 「それ、なんだ?」 「カレー粉だよ。これを入れたらカレーになるんだ……ってなんでお前まで来るんだよ。鍋見とけって言っただろ」 「あっ、そうだった! 大変なんだ、ふたがばこばこしてるんだ!」 その言葉に危機を感じて台所に駆け込むと、火台の上では盛大に湯気が舞い、ふたはまるで踊るように鍋の上で跳ねている。 「わっ、わっ、鍋つかみ、鍋つかみ!」 ピィスは慌てて荒れ狂うふたを取った。さらに広がる熱い湯気。それが消えて目に映るのは、濁った水と広がる水草、舞い踊る砂に砂利、そして細かく煮崩れたあられもない姿の野菜。 「うわ――!!」 ピィスはふたを掴んだ姿勢で、驚愕のままに叫んだ。 「どうしたんだ、大丈夫か!?」 「みっ、緑! 緑色になってる! なんで!?」 「それは最初からだぞ。おれの水が緑だったから。水草が入ってるんだ。すごく旨い水なんだ」 あっけなく告げられた原因に、ピィスはしばし言葉を失い、その後で全力を込めてカリアラの額を打つ。きょときょととする彼に罵声を浴びせた。 「この川魚! 淡水魚! ああもうどうすんだよー。切った材料はもうないし……」 「また切るのはだめなのか? 犬はもういないのか?」 「お前がいる時は来ないよ。第一そうそう手伝ってくれるもんでもないし、オレもお前も出来ないし」 困り果てたピィスの様子に、カリアラは不可解そうに眉を寄せた。 「なんで包丁が恐いんだ? 全然痛くないし、怪我もしないぞ。お前、変だな」 ピィスは途端に顔を赤らめ、カリアラを睨みつけた。発言が癪に障ったのだろう、そのまま怒りの表情で近くに置かれた卵を掴む。ガラスのボウルを小脇に抱え、激しい手つきで卵を割った。 「お前だって卵割るの恐いくせに。ほら、ほら!」 びくりと怯えるカリアラに近寄りながら、次々と卵を割る。ぐしゃり、ぐしゃり。カリアラは壊されていく卵を見つめてみるみると青ざめた。卵は殻を巻き添えにしてボウルの中に溜まっていく。 「ほら! お前だって怖いくせに!」 ピィスは苛立つように言うと、泡立て器でボウルの中をかき混ぜた。黄身と白身と壊れた殻が無惨なまでに崩されて、混ぜられて、まだら色になっていく。カリアラは息ができなくなったようにぱくぱくと口を動かし、力なくよろめいた。か弱い動きで机の下に潜り込む。外敵から身を護るように、椅子や箱を寄せ集めて小さく小さく丸まった。がたがたと震えながら弱々しい目を卵に向ける。 ピィスはハッと我に返り、顔中を罪悪感でいっぱいにして、怯える彼を覗き込んだ。 「ごめん、ごめんな。もうしないから。ほら、もうない」 ボウルを背に回して言うが、弱りきったカリアラの目は後ろまでついていく。ピィスはなんとか彼を宥めようと、ぎこちなく笑ってみせる。 「ほら、もうないから。だから怖くないよ。なっ」 そして引きつる笑みを浮かべたままで、殻の入った卵液を鍋の中に流し込んだ。 何をしてしまったのか、理解するまでに一瞬の間があった。 「あ――っ!?」 叫んでみてももう遅い。煮えたぎる鍋の中では、黄色い卵と緑の水がどろりどろりと絡み合って不気味な沼を生み出している。冷たい卵の乱入で収まっていた熱の泡も、すぐにまた続々と沸き起こっては鍋の中をかき混ぜた。水草と砂利と卵の殻が浮かんでは底に沈む。卵は徐々に固形となって、雲のように漂い始める。沼から生まれた黄色い雲は、へどろのような液体を隠すように覆っていった。 「…………」 「ど、どうしたんだ? なんで黄色くなったんだ?」 立ち直ったらしきカリアラが、鍋の中を覗き込む。ピィスはもはやどうしていいか解らずに、意味もなく中身をかき混ぜてみた。崩れてしまったじゃがいもや、緑色に染まりつつある玉ねぎが卵を被って現れる。ピィスは何も言えないままに、それらを鍋の底に沈めた。 「具だ」 腹の据わった声で言う。 「これは具だ。最初からこういう料理だったんだ」 「そうか。これがカレエなのか」 カリアラは素直にそれを受け入れて、ふむふむとうなずいた。ピィスはうつろな声で呟く。 「……カレー粉だ。カレー粉を入れればまだなんとか……卵緑カレー。卵緑カレー。卵緑カレー」 この世には存在しない料理名を繰り返しつつ、持ってきていたカレー粉の袋を掴む。悪夢を消してしまうように、黄色い粉を大量に投入した。全開になった口から音もなく粉が流れる。袋の中身を半分以上空けたところでようやく止めた。 「いっぱい入れるんだな。すごいな」 「ああ凄いとも。これほどなく凄いカレーにしてやるとも」 だが山盛りの粉を無理やり溶かし始めたところで、ふと袋に書かれた文字に気づく。 きな粉 「豆かよ!!」 絶叫に近く怒鳴るとカリアラがびくりと怯えた。ピィスは袋を凝視するが、どう確かめてもきな粉としか書かれていない。古びて消えかけた文字が憎らしかった。袋の中身を舐めてみても、間違いのない豆の味。遠い目で見つめてしまう鍋の中では、所々でだまになったきな粉が静かに溶けていく。 「どうしたんだ? 豆なのか?」 「うん、これは豆カレーなんだ。ていうか豆卵緑カレー」 「そうか。なんかすごい名前だな」 「凄いけどカレーじゃねえよ……どこにあるんだよカレー粉。もう探す気にもならねーよ……」 カリアラはうなだれた彼女を心配そうに見つめていたが、よし、という顔をすると食糧庫へと駆けて行く。そしてすぐに粉の入った袋を抱えて戻ってきた。ピィスが何かと問う暇もなく、鍋に向けて袋を反す。白みがかった半透明の粉粒が、どっと中に入り込んだ。 「ちょっ……何すんだよ!」 「か、カレー粉。これじゃないのか? だってこれ、この前サフィが使ってたぞ」 おろおろとする彼から袋をひったくり、表書きを確かめる。 寒天粉 「おおおおおお……」 ピィスは小さく震えながらあまりの事態におののいた。空になってしまった袋が同じように小さく揺れる。カリアラはピィスの顔と袋と鍋を、心配そうに交互に見つめた。鍋の中では山盛りになった寒天粉が裾から徐々に溶けていく。崩れていく透明な粉の山は、悲しいまでに美しかった。それも広がるヘドロの沼へと着実に堕ちていく。 「…………」 ピィスは呆然としてしばらくそれを見つめていたが、こわばる顔で中身をかき回し始めた。肉と野菜と水草と砂利と卵ときな粉と寒天粉が、おのれの手で混濁していく不思議な感触。もったりと重いそれにひどく遠い目を向けて、抑揚のない声で言った。 「……お前の好きなもの、入れていいぞ。なんでも勝手に混ぜちまえ」 「えっ、いいのか? 魚でもか?」 「ああ。魚カレーってことにしよう。それはそれでこれはこれ」 カリアラは喜びに頬を染めて、そわそわと指を折る。 「えーと、えーと、あっ、ひじき。ひじき入れていいか? あとな、あとな、庭の草!」 「そのかわりちゃんと食えよ! 絶ッ対食えよー!」 こうして濁った鍋の中には、大量のひじきと干物と燻製と、土のついたままの草がおごそかに投入された。ピィスはすべてをまんべんなくかき混ぜて、むらのない液体に変えたところで鍋を下ろす。 「……じゃ、冷やすか」 「そうか、こういう料理だったのか」 「外が寒くて良かったなー」 真面目に受け取る彼の言葉をなめらかに無視しつつ、ピィスは重い鍋を冷え込む外へと持ち出した。 |
※ ※ ※ ああ、嫌な予感がする。サフィギシルは夕日も落ちた窓の外を眺めつつ、不安に沈む胸を押さえた。手はすぐに胃のあたりへと移される。空腹だ。切ないまでに腹が減って仕方がない。どうやら今日は意識を落としているうちに、胃洗浄までされたらしい。 ジーナはどんな修理をしたのか一言も教えない。それどころか、こちらの目が覚めた途端に部屋を出てしまうのだ。直接触れ合っているはずなのに、会話どころかほとんど顔も見られない。 だが今はそんなことよりカリアラたちが気になった。台所から遠く離れているはずなのに、騒ぎ声や怒声がたびたび聞こえてくる。異国語や木を打つような音までしたのは何事だろう。眠って待とうと思っていたが、睡眠中に奇怪な料理を食べさせられてしまいそうで、恐ろしくて横にもなれない。 どちらにしろ、両足が鉄で固められてしまっているので逃げることはできないが。 サフィギシルはいつもよりも数段重いため息を吐き出した。 そこに、足音が近づいてくる。いやにゆっくりとしているが、どう考えても彼らだろう。所々で「うわ」だの「気をつけろ」だの気になる言葉が行き交っている。サフィギシルはせめてもの抵抗として、歯を食いしばる練習をした。 「はーいはいはいお待ちどー。晩ご飯ができましたよー」 部屋のドアが開かれて、不自然な笑顔のピィスがいやに明るい声で言った。その後ろには大きな皿を慎重に抱えるカリアラ。皿の上には丸い器が裏返しに被せられ、中身が見えなくなっている。 「なんでわざわざこんな演出……」 「よいこのボクは腹ペこかなー?」 「聞けよ」 だがピィスは動じもせずに、カリアラをベッドの側の一番いい位置に立たせた。 彼女は助手のように隣に並び、わざとらしいまでの仕草で被せられた器を取る。 「じゃーん。本日の夕食、カレーでーす」 サフィギシルは現れたものを見て、素早く壁に張り付いた。 皿の上にあったのは、どろりと濁った謎の物体。黄色いような緑のような不可解な色の中には、ぽつりぽつりとひじきらしき黒い影や野菜のかけらが見えている。 だが色は問題ではない。問題なのはその形状。 自称カレーのその物体は、ゼリーのように自重でたわむ立方体だったのだ。 「角切りじゃねーか!!」 サフィギシルはあまりのことに顔色を失い叫ぶ。完全に引いた彼の目は、それでも奇妙な自称カレーに取り付いて離れなかった。なんだこれはなんだこれはなんだこれは。混乱する思考をよそに、自称カレーの立方体はぷるぷると揺れている。 「ハーイお客さま、本日の唯一にしてメインデッシュ、カレープティング海藻風味です」 「もっともらしい名前を付けるなー! 組み合わせがありえない!」 混乱のままに叫ぶと、ピィスはやけに男らしく真剣な顔で言う。 「馬鹿やろう、発明はこういう斬新な発想から生まれるんだよ!」 「発明ってなんだ! 料理はどこに行ったんだ!! 震えてる! なんか異常にぷるぷるしてる!」 「ほーらやわらかいよー。お口の中でとろけるよ?」 「無駄に長所を強調するな! やめろ、近づけるなーっ!!」 ピィスは匙で一口分をすくい取り、不気味な笑顔で近づける。サフィギシルは体を引いてそれを見つめた。緑がかった黄色の中から草の根が飛び出している。 「なんで草が入ってるんだ! 土がっ、土が浮いてるし!」 「入ってる材料を全部当てたら三百点!」 「なんのゲームだ!」 必死になって抵抗するが、両足も左腕も重くてろくに動かない。怪しいゼリーは少しずつ笑顔と共に近づいてくる。ぷるぷると揺れる表面に、土や草や卵の殻を見つけたところでカリアラがピィスを止めた。 「サフィ、無理に食わなくていいぞ。これ、すごくまずいから」 「食ったのか!?」 安堵よりも感謝よりもまず驚きが先に出た。カリアラは深くうなずく。 「食った。すごくまずかった。すごくまずかった! だから無理しなくていいんだ。でも……」 カリアラは毒も他意も見当たらない、ごくごく真面目な顔で告げた。 「これ食わないと、お前他に食うものないぞ。夕食抜きだ」 「ああー、そう来たか!」 サフィギシルは頭を抱えてぐったりとうなだれる。いつもならば一食ぐらい抜いたところで問題はない。だが今は、胃の中が文字通り空っぽなのだ。このゼリーを食べるのは絶対に避けたいが、何か腹に入れないと飢えで眠ることもできない。 「大丈夫。暗黒雑炊よりはちょっとだけましだった」 「そんな底辺の基準で安心できるかー! だから近づけるなーっ!」 ピィスは悪い笑みを浮かべてまたもやゼリーを近づける。抵抗する右手は掴まれ、逃げるすべを失った。サフィギシルは泣きそうになりながらも必死に歯を食いしばる。だがふるふると震えるゼリーはゆっくりと近づいて、とうとう口に触れかけた、その時。 「遅くなってすまない。夕食を持ってきたぞ」 改めて開いたドアからジーナが姿を現した。腕に抱えた袋からは、真っ当な食べ物のいい匂いが漂ってくる。サフィギシルは救世主を見るような目で彼女を見上げた。 「どっ、どうした。なんだその顔はっ」 ジーナは動揺して彼の目から逃れるように、そそくさと部屋の隅に寄る。壁際の文机に、街で買ってきたらしき惣菜を並べ始めた。 「職場に寄ったら事務処理を押し付けられて、こんな時間になってしまった」 「ありがとう。もう、本当、ありがとう……」 「大丈夫か? 発言に脈絡がないぞ。ほら、お前らも食べろ。なんだその変な塊」 ジーナはひどく弱々しいサフィギシルを心配し、立ち尽くしていたカリアラとピィスに指示を出し、料理を並べててきぱきとその場を仕切る。だが唐突に窓が開き、冷たい風が吹き込んだ。 「遅くなってすみません。夕食を捕ってきましたよ!」 勢い込んだ台詞と共にシラが窓から顔を出す。そのゆるやかな金髪も、整った顔でさえも水浸しになっていた。水の滴るスカートは籠のように広げられ、中には元気な川魚がぴちぴちと跳ねている。身を引く人間たちをよそに、カリアラが嬉しげに駆け寄った。 「すごいな、いっぱい捕れたな!」 「冬が近いから、魚の数も少なくて……上流まで泳いでいたらこんな時間になっちゃって」 楽しげに笑う瞳、薔薇色に染まる頬。だが誇らしげに掴むのは、顔を抉られた鮭。 「随分と暴れられましたが、戦ったかいがありました」 「なにが夕食だ。生魚を持ち込むなんて、これだから野生動物は困る」 冷ややかなジーナの言葉に、シラの笑みがぴたりと凍る。だがそのまま持ち直し、愛らしさすら感じる微笑でやわらかく罵倒した。 「そちらこそ、お金を出さなきゃ何ひとつできないんですね。これだから人間は困ります」 ジーナは憎らしげに歯噛みした。怒りを浮かべるその顔は恐ろしく迫力がある。彼女は冷たい眼差しで、ずぶ濡れのシラを見下した。シラもまた微笑みを張りつけたまま見つめ返す。痺れるほどの睨みあいは完全に二人の世界だ。挟まれたサフィギシルやカリアラたちは、おろおろと二人を交互に窺った。 だがいつまでも続きそうな戦いは、ピィスの声に遮られる。 「まあ、とりあえずシラは着替えて。ジーナさんも一緒に食べるんだろ? 席作らないと」 ジーナは途端に表情を弱くした。うろたえた様子で目を逸らす。 「いや、私はいい。お前たちだけで食べろ。……明日も来る。しっかりと栄養を摂っておけ」 誰もが彼女を不思議そうに見つめるが、ジーナは誰も見ようとせずにそそくさと出て行った。あっけなく収まった女性二人の対立に、残された者たちはそれぞれ怪訝な顔をする。だが結局は、誰一人疑問を口にしないまま、食事の準備に取りかかった。 「……ちゃんとした食べ物って、いいな……」 サフィギシルはしみじみと呟いた。唯一使える右手には、肉と野菜を挟んだパン。利き手ではないために使いづらさを感じるものの、それほどの支障はない。ジーナが買ってきたものは、どれも片手で食べることができるものばかりだった。 「じゃあなんですか。生の魚はちゃんとしてない食べ物ですか」 「別にそういうわけじゃ……いや、そういうわけか。うん、ちゃんとしてない」 正直に答えると、元々機嫌の悪いシラはますます顔を曇らせた。乾いた服に着替えているが、髪はまだ濡れている。冷たい水に凍えたのか、体に毛布を巻きつけていた。その隣でカリアラが、ばりばりと音を立てて生魚を呑みこんでいる。喉のキバで潰す音が生々しく耳に響いた。ピィスが呆れたように言う。 「カリアラにとってはちゃんとしてるから、まあいいんじゃないの。な、カリアラ」 「うん。おれは魚が食えて嬉しいぞ。シラ、ありがとう」 心の底から嬉しそうな彼の笑顔につられるように、シラもまた嘘のない笑みを浮かべた。 サフィギシルは三人を見下ろしながら、黙々とパンを口に運ぶ。自分だけベッドの上に座っているのが、なんだかやけに落ち着かない。カリアラもシラもピィスも楽な姿勢で床に座り、それぞれが好きなものを食べている。シラはピィスに遠慮してか、生魚ではなくまともな料理を食べていた。だがジーナの影がちらつくのか、料理にあてる目は冷たい。 「そういえば」 何気なく口にすると、三人の目がふとこちらに向けられた。サフィギシルは居たたまれない気分になって、膝のあたりを見つめて続ける。 「シラとジーナさんって、なんでいきなり険悪になったんだ?」 「あ、それオレも知りたい。なんかいきなりケンカしててさ。何があったの?」 みんなの視線は今度はシラに向けられた。シラは言葉を詰まらせて、気まずそうに目を落とす。ちら、と一瞬サフィギシルの方を見るが、すぐに顔をそむけてしまった。質問を拒絶するように言う。 「……別に、何もありません。ただ少し気に入らないだけです」 言葉通りでないことは、誰の目にも明らかだった。だが追求する者はなく、サフィギシルは気になりながらもパンを食べ、ピィスもまた手持ちの料理を口に運ぶ。カリアラがきょとんとみんなを見つめたが、またすぐに魚を手にとった。 気まずくなってしまった空気に、ピィスが明るい声を出す。 「でもまあ食糧危機も脱したことだし、あとは料理人の復活を待つだけか。いっぱい食って大きくなれよ」 「これ以上成長しねーよ」 「まあまあ、お姉ちゃんが食べさせてあげよう。はい、あーん」 「どさくさに紛れてゼリーを食わせようとするな!」 自称カレーの残骸を全力で拒否すると、カリアラが真似をして生魚を突きつけた。 「はい、あーん」 「誰が食うかー! やめろ、近づけるなーっ!」 だが止めようとしたカリアラの手を、シラがまた押し出した。楽しそうに笑って言う。 「好き嫌いはいけませんよ。生魚でもちゃんと食べなきゃ」 「よーしオレが押さえてやる。カリアラ、いけー!」 「やーめーろー!!」 こうして四人でどたばたと騒ぎながら、平和な夜は更けていった。 |