数々の説教と説明を終えて解放されたのは、食事時間もとっくに越えた昼すぎのことだった。サフィギシルとカリアラは不安に足を早めつつシラとピィスの元へ向かう。たどり着いた部屋の扉はいやに厚く、『貴賓室』と記されている。サフィギシルは間違いかと場所を確認しかけたが、カリアラにせかされて焦るようにノブを回した。 そして中の光景を見て思いきり顔をしかめる。 室内はそれほど広くもないが、並べられた調度品はやたらと高価なように見えた。ソファも机も落ち着きのある深い茶色で統一されて、床に根でも生えたようにどっしりと構えている。石壁に掛けられたタペストリーも床に伸びる敷き布も上等品。調和する重厚な色によって、部屋の空気は庶民からは程遠いものになっている。 その中で、高級そうな革のソファに身を沈め、机の上に行儀悪く足を乗せる娘が一人。 「あ、やっと来たー。もう飯食ってデザートまでもらっちゃったよ」 ピィスは何のてらいもなくいつも通りにくつろいでいた。サフィギシルは呆れつつ中に入る。 「お前なに馴染んでるんだよ。ここ貴賓室って書いてあったぞ」 「だってオレ爺さんにくっついて来て、よくここで待たされてたもん。いつもは親父と一緒にね。お前らあっちで飯食ったの? デザートまだあるけどいる?」 「うん、あっちで食ったんだ。それ旨いのか?」 「オレは好きだよ、甘さひかえめで。ヨーグルトの味がすんの」 入り口に立つカリアラにも見えるように、ピィスは小皿を傾けた。半分食べ終わったそれは、野いちごや山ぶどうを白いムースであえたものだ。味にとどめを刺すように鮮やかな赤いソースがかけられている。すぐ外の露店で売っているものらしく、器や中身は部屋に比べて段違いに安物だった。 「ここの担当のお兄さんいい人だから、頼んだらちゃんと全員分買ってきてくれたよ」 「お前そういうところ上手いよな。人見知りって知ってるか?」 「世渡り上手と呼んでくれたまえ。まあ座って座って」 ピィスは足を下ろしながらサフィギシルを招き寄せ、向かいの席を手で示す。 「ささ。あちらにどうぞどうぞ」 ぽかりと空いたその隣には、作りものの笑みを浮かべるシラが座っていた。 「なんの罠だー!」 サフィギシルは全力で着席を拒否する。唐突な大声にカリアラがびくりと震えた。だがシラは眉ひとつ口元ひとつ動かさず、完全に静止している。整いすぎた微笑みは精巧な人形のようだ。あまりにも不自然すぎる状態が恐怖心を嫌でも煽る。 「オレだって怖いんだよ来てからずっとぴくりともしないし! なんかもう置物みたいになっててさあ!」 「だからって放置してくつろぐなよ!」 ピィスもほとんどやけのように思いきり指をさすが、それでもシラは身じろぎひとつしなかった。だが手にしている鉄のさじは内心をあらわすようにぐにゃりとねじまがっている。顔色も恐ろしく冷めている。 「カリアラ!」 サフィギシルもピィスも同時に彼を呼んだ。カリアラは助けを求める視線を受けて、頼もしく頷いてみせる。ひとまずの避難場所を示すように扉の外を指さした。 「二人は危ないから逃げてくれ。ちょっとだけ外で待ってろ」 サフィギシルとピィスは迷わず頷く。縋るような二人に向けて、カリアラは更に真面目な顔で言った。 「あと、耳をふさいでてくれ。何が聞こえても聞かなかったことにするんだ」 サフィギシルとピィスは冷たい廊下に並んで座り、大人しく解決を待つ。 シラの泣きわめく声が聞こえた。まるで幼い子どものように駄々をこねる言葉も届いた。だが嗚咽は愚痴を重ねるごとに少しずつ引いていき……最終的には、甘い声音に変化する。くすくすと楽しそうに笑う声まで聞こえた。 「入っていいぞ」 終了の宣言を受けて部屋の中に戻ってみると、シラはとろけそうな笑顔でべったりとカリアラに抱きついている。カリアラは彼女を抱きしめたまま平然と言い切った。 「大丈夫。もう直った」 「…………」 言葉がひとつも出てこないので、サフィギシルとピィスはそれぞれに頭を抱える。お互いが無言のまま隣り合ってソファに座った。向かいでくっつく熱帯ふたりを気にするように、不自然なまでの距離を開けて。 「迷惑かけてごめんなさい」 今までとはうって変わった表情で謝るシラから目をそらし、ピィスは気まずそうに言った。 「あー、うん。はい。別にいいよな」 「……このあと家で急に態度を変えたりしないなら」 疑い深いサフィギシルの言葉を受けて、カリアラは真面目な顔でシラを諌める。 「シラ、サフィを悪くしたらだめだぞ」 「うん、わかった」 嬉しそうな笑みを浮かべ、シラは彼の腕を抱いた。カリアラはよしと言って小さく頷く。 「うわすげえ。なんか大人の男に見える」 「お、大人とか言うなよ。変な想像になるだろ」 ピィスがもらした何気ない感想に、サフィギシルが過剰なまでに反応する。顔も赤く動揺する彼を見て、ピィスは面白そうに笑った。 「オレたちが外にいる間、この中では……」 「だから言うなーっ!」 意地悪く煽る言葉を避けるようにサフィギシルは耳をふさぐ。その間にもシラは手ずからカリアラにデザートを食べさせている。 「あ、これ旨いな」 「お前も平然と食ってるなよ」 「いいじゃないですか、どうせお昼もろくなものじゃなかったんでしょう?」 シラの差し出すさじに食いついて、カリアラはよく噛みもせずに果実を飲み込む。 「さっきのも旨かったけどな。ちょっと辛かったから、これ食ってちょうどよくなるな」 「そうだカリアラ、お前昨日の夕食なに食わされたんだ? ジーナさんは答えてくれなかったんだよ」 ふと思い出したらしきサフィギシルの質問に、彼は当たり前のように答えた。 「肉だ。生のやつ」 カリアラ以外の三人は怪訝な顔で彼を見つめる。 「……生肉?」 「うん。それでな、その肉をひもで棒に結んでな、ジーナがひょわーっと投げるんだ。それで目の前に飛んできたやつに飛びつくと、おれはひもごと引っぱられて、ジーナは『魚がつれたー』って」 「何やってんだお前ら」 「うわ、オレ想像しちゃったよ。ジーナさんがすっげえ嬉しそうに遊んでるところ」 「カリアラさんもう一回最初から詳しく説明して下さい。あの人が何をしたんですか?」 どうしてみんなが眉を寄せるのか解らないというように、カリアラはきょとんとして三人を見つめ返す。不思議そうに開きかけた口の動きはドアの音にさえぎられた。 「まあ要するに釣りごっこよねー」 部屋に入り込んだのはのんびりと響く声。ハッとした全員の視線を受けて、アリスは片手を挙げてみせた。 「カリアラ君、面会時間は終わりだって呼ばれてるわよー」 「もう? さっき逢えたばかりなのに……なんなんですかあの人。何様ですか」 途端にこわばるシラの声にカリアラたちは身構える。だがアリスは曇りかけた雰囲気など気にもせずに言いのけた。 「愛人様じゃないのかしらー」 ためらいのかけらもない一言で、その場の空気がぴたりと止まった。 カリアラとアリス以外の三人は自然と目を交わしあう。誰の顔も気まずそうだが、その奥には下世話な好奇心が見え隠れしていた。共感の仲間を代表するように、ピィスが静かに口を切る。 「ねえ、それってどうなのかなあ。本当に愛人だったの?」 「お前が言い出したんだろ。今朝初めて知った俺に聞いてどうする」 サフィギシルは責任を逃れるように一歩引く。実際のところ彼はピィスの口から聞かされるまで、この話を知らなかった。ピィスは身のやり場がないようにソファの背に腕をかけ、言い訳のように続ける。 「だってさー、よく考えたら爺さん結婚してないし。奥さんがいなきゃ愛人にはならないだろ」 「愛人みたいな立場ってことなんでしょー。先輩、囲われてたらしいから」 アリスの新たな証言は、ぎこちなく積み上げてきたやりとりをあっさりと打ち砕いた。 「かこ……」 「囲うってなんだ?」 絶句したサフィギシルたちを不思議そうに眺めつつ、カリアラがずばりと尋ねる。 「それはまだ知らなくていい言葉ですよ」 「そうか」 笑顔のシラにやんわりと断られると彼は素直に頷いた。 一同に安堵のようなものが渡り、ピィスがいやに声をひそめて話の流れを改めなおす。 「……で、囲われてたって。そういうことなの?」 「まあ実際にどうだったかは知らないけど、ここの中じゃそういうことになってるわねー」 回答するアリスの声は気遣いのかけらもなくいつも通りの大きさだった。 彼女は四人に近寄りながら、ゆっくりと説明する。 「あたしはまだここに来て日が浅いけど、それでも先輩が組織の中でどういう立場なのかぐらいは解るのよ。あたしたちのいる技師対策第十四課はねー、ビジス・ガートンと前のサフィギシルだけを専属で担当する部署だったんだけど。あたしが来るまでずっと先輩ひとりでやってた仕事なのよねー」 「あ、そうそう。ジーナさんひとりであの部屋使ってたんだよな」 「あの執務室はビジスさんが作らせたんですって。そもそも十四課を作ったのも、そこに先輩だけを配置したのもビジスさんの指示によるらしいわよー。で、ほとんど人の寄り付かない奥の奥にある部屋に、ビジス・ガートン本人はしょっちゅう通いつめていた、と」 その事実が意味することに気づいた者は、揃って顔を引きつらせた。 あまりにも気まずい空気が喉の奥にふたをする。息苦しいまでの沈黙が部屋を満たした。 サフィギシルがハッと気がつきこわばりを解いて尋ねる。 「ちょっと待て。カリアラ、お前昨日あの部屋に泊まったって言ってたよな。どうやって寝た?」 「うん。奥の部屋のな、壁を動かしたらな、ベッドが出てくるんだ。そこで寝たんだ」 「ちなみに二人用なのよー。カリアラ君はひとりで寝たけど」 「うん。広かったな」 「…………」 |
逃げ道もないほどに決定的な事実に打たれ、サフィギシルはうなだれた。 「悩める青少年が青ざめております。ていうかオレもそれはどうかと。わー、爺さんって……」 「じゃあなにか。俺が昨日引きずりこまれたあの部屋は……」 言いかけるが続く言葉は子どもの口には重すぎる。絶句するサフィギシルをからかうように、シラがピィスの口真似をして言った。 「ピィスさんたちがここで待っている間、その部屋では……」 「う、上手くないぞー! その発言は何ひとつ笑えないぞ!」 先ほどの発言をふまえた冗談だが笑える余裕はどこにもない。様々なものが頭の中を回りまわっているようで、サフィギシルは船酔いでもしたかのようにぐったりとソファにもたれた。 ピィスがいやに神妙な顔で言う。 「なんというか、この国に来て約五年。初めて事実を知りました」 「それは少し遅すぎませんか」 「だって親父とか絶対に教えてくれないしさー。赤ちゃんは畑の中から自然発生するとか真面目に言う人でさー。どの面下げて王様の先生やってんだか」 「えっ、人間の子どもは畑から出てくるのか!?」 「はいはい、それは後で教えてあげますからね。今は気にしないでね」 本気にするカリアラの肩をシラがなだめるように叩く。恒例のやり取りを遠い目で見つめつつ、サフィギシルはソファに体を沈めた。 「ああ、でも俺そういう人に育てて欲しかったかも。最初からこんなのは……」 「そうだよなー。いきなり愛人とか出してくるのはちょっとなあ。でもさ、これで納得できたような気がする」 「なにが」 「いや、お前は知らないだろうけど。ジーナさん、爺さんの葬式で大泣きしたんだよ」 理解を待つ一瞬の間をおいて、サフィギシルは驚いて身を起こす。 「あの人が!?」 「うん、もう号泣。人間ってこんなに泣けるのかってぐらい。国葬だからさ、人がいっぱいいるってのに声上げて泣きまくって、顔も化粧もぐしゃぐしゃにして。普段あれだけ気の強い人なのにさ、子どもが泣きわめいてるぐらいにわんわん泣いて。なんか、こう……ちょっとどっかが壊れちゃったのかと思ったもん、オレ」 「わー、初耳ー。先輩もそういう風に泣くことがあるのねー」 「オレだって初めて見たよ、あの人が泣いてるところ。前のサフィの時は泣かなかったから」 新しい話題の種に、カリアラ以外の全員の目が好奇心に彩られる。 「そうなんですか? 泣かなかったって、全然?」 「それちょっと興味深ーい。詳しく教えて」 長くなりそうな気配にアリスは床にぺたりと座り、テーブルに寄りかかって話を聞く姿勢になった。眠たそうにとろけた瞳が低い位置から続きを促す。ピィスは思い出しながらのように、視線を上げて喋りはじめた。 「えーと。前のサフィの葬式は、人はほとんどいなかったんだけど。ジーナさんは一人だけなんかこう……怒ってるみたいな、恐い顔してずっと墓を睨んでて。あんまりピリピリしてるから、恐くて近寄れなかったんだ。だからよく見てないんだけど、多分泣いてなかったと思う」 「……単純に仲が悪かったから、というだけではないような気がしますね。それ」 シラは疑惑を転がすように口元に指を当てた。カリアラはそれを見て全く同じ仕草を真似る。どう答えるべきか悩むように、ピィスは首をぐるりと回した。 「うーん。オレは泣かなかった分だけ爺さんと前のサフィじゃ気持ちの差があったのかと思ってたけど。なんかもうよくわかんないや。改めて考えてみるとさ、爺さんとかジーナさんとか、その時いた大人同士の会話なんて全然聞いてないんだよな。大人は大人、子どもは子どもで別の世界だったっていうかさ。詳しいことは親父に聞いてみるよ」 「また誤魔化されないといいけどな。子どもが生まれる過程みたいに」 一応は軽口を叩いているが、サフィギシルの目は思案の中に深く潜りつつあった。だが続くアリスの言葉で現実まで浮上する。 「まあ色々と思うところもあるでしょうけどー。そろそろ戻らなきゃ先輩が怒ってやってきちゃうわよー」 「そうか。じゃあ行かなきゃな」 びくりとして青ざめたサフィギシルを落ち着かせるように、カリアラが腰を上げた。追いすがるように立ったシラにしっかりと言い聞かせる。 「また明日会うからな。それまでサフィに迷惑かけたらだめだぞ」 シラは不承不承という風に、つまらなさそうに頷いた。アリスがシラに声をかける。 「外出許可も申請すればすぐに取れると思うわよー。明日は外に出してもらえるように頼んであげましょうか?」 「お願いします!」 思わず弾んでしまった声を照れるようにシラはそっと口を押さえた。アリスは表情ひとつ変えず、サフィギシルに向かって言う。 「外で気をつけるべきなのはカリアラ君じゃなくてサフィ君だものねー。本当は外出しない方がいいんだけど、明日もまだここに来なきゃいけないんでしょ」 「あ、うん。用が済んでないからって……」 今日中に終わっていれば問題はないのだが、何らかの事情があって今日片付けるはずの所用は明日に延期となっている。どちらにしろシラはカリアラに逢いたがるから都合は良かった。 「まあ護衛がつくから大丈夫よねー。帰りは協会の人に送らせるから」 「え、リドーさんは?」 ここまでの道は護衛として迎えに来たリドーが側についていた。技師協会に着くとすぐに本来の持ち場に戻ったが、また頃合を見て戻ってくる約束をしていたのだ。行き帰りの護衛役は、彼を含む街部警備八番隊の臨時業務とされたらしい。 「リドーさん、急に街の方から手が離せなくなったんですって。魔術技師の作品の暴走が多発したとかで、さっきまでこっちもバタバタしてたわよー。だから今日は……オウリさーん、みなさんお帰りでーす」 半開きになっていた扉の向こうに声をかけると、しばらくして背の高い男が現れた。外回りの仕事をする人なのだろうか、筋肉のついた肌は赤黒く焼けている。太い腕に回された腕章は余裕がなくて腕輪のようになっていた。幅を取る体格を丸めるように、彼は深く礼をする。 「今日のところはこのオウリさんが護衛をしてくれるからー。明日はちょっと誰になるか解らないけど、リドーさんのところの部下なら支給の剣とか、制服の紋章とか、身分証明になるものを見せるはずだから確認してね。手が足りなくて兵士の人が行けない時は、協会がいざという時戦える人を派遣するから。その場合はこの腕章と、あと指輪……」 アリスの言葉に合わせるように、オウリは左手を出してみせる。日焼けした太い指には似合わない紫の指輪がはまっていた。石はなく、幅の広い銀の台に細い筋が絡み合う魔術的な意匠を彫り込み、紫色の塗料を埋めてあるようだ。 「こういう指輪をしてるかどうか、ちゃんと確認してね」 「それ、なんだ?」 カリアラはよく見えないというように首を伸ばす。 「魔術技師の資格証です。資格を持つ技師は全員装着を義務付けられています」 オウリはそちらに手を向けながらはきはきと説明した。カリアラはアリスの指を目で探る。彼女は何もつけていない手をひらひらと振ってみせた。 「あたしは技師じゃないのよ。まあ協会員が全員技師ってわけでもなくて、せいぜい三割ぐらいかしらー。でもさっき戦力になる人を集めてみたら、ちょうど全員資格保持者だったの。だからちゃんと確かめて、悪い人にはついていかないようにねー」 「護衛に回る協会員の名簿も作成しましたから、それで照合してください。私もですが、兵士をやめて技師になった者ばかりですし、普段から戦闘の多い部署で働いているので安心してくださいね」 オウリはサフィギシルに向かって力強く笑ってみせる。日に焼けた顔色に白い歯が際立った。 「あ、はい。お願いします」 サフィギシルはまだ自分の置かれた境遇に実感が湧かないらしく、戸惑いながら頭を下げた。ピィスがよいしょと声を上げて立ち上がる。 「じゃ、帰るか。カリアラ、勉強がんばれよー」 それだけ言って帰ろうとした足は、話の長い二人によって引き止められた。 「あんまり馬鹿なことするなよ。あと転ぶから走るな。特に階段は気をつけろよ、ここ石積みだから壊れるぞ。怪我しても修理してやれないんだからな! 世話になるんだからちゃんと挨拶して、何かしてもらったらお礼も言えよ」 「あの人にいじめられないようにね。何かされたら全部言うのよ。釣り糸には噛みついちゃだめよ。それから……」 「うん、大丈夫だ」 カリアラは終わりの見えない話を遮るようにきっぱりと言い切った。 サフィギシルとシラ両方がそれでぴたりと黙るので、ピィスは吹きだしてしまう。 「心配しすぎなんだよ。二日目からこんなんじゃ先が思いやられるぞー?」 「う、うるさいな。いいだろ別に。帰るぞ」 サフィギシルは赤らむ顔で早足に先を歩き始める。オウリが慌てて後に続いた。シラも名残惜しそうに何度も振り返りながら外に出る。置いていかれないよう急ぐ姿はみるみると小さくなった。 道を知るピィスはゆっくりと後を追おうとするが、肩をとられて立ち止まる。 「え、なに?」 振り返るとカリアラが引き止めていた。驚いて見上げると、彼は心配そうな顔をしている。 「あのな、あのままだと後でシラが大変で、サフィはすごく困るんだ。だから今日は夜まで家にいてくれないか。お前がいたらシラも大人しくなるから」 その言い方があまりにも真剣なので、思わず優しい笑みがこぼれた。ピィスは彼を安心させるように頼もしく了承する。 「ん、解った。どうせ封印ありゃ安全だし、今晩は泊めてもらうよ」 「ありがとう。頼む」 カリアラの顔が笑みに緩んだ。ピィスもつられて笑顔になるがそれはすぐに呆れに変わる。 「なんだかなあ。お前が一番しっかりしてんだよな、結局」 きょとんとしたカリアラの顔を見て、ピィスは面白そうに笑った。 |