第3話「ビジス・ガートン」
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 氾濫には慣れている。カリアラは複雑に暴れる水流を読み、体をまるで魚のように水にまかせて川下へと流れていく。そしてたちまち様々なちりや砂が行き交う中に、必要なものを見つけた。
 そこまでは何の問題もなかった。
 だがめあての物を強く握りしめた途端、腕の傷が開いた。カリアラは痛みに体を痙攣させる。その動きは水を煽いでさらに全身の傷を開く結果となった。痛覚は最小限に制御してもらっている。だが肌が裂け、剥き出しとなった神経に容赦なく水がぶつかっては体の中に入り込む。弦のように震える糸は痛みと悪寒を強く奏でた。混乱のまま、カリアラの意識はどこかに流れていきそうになる。全身の傷口から空気の泡が波にもまれて消えていく。空いた場所を埋めていくのはちりを交えた川の水。木の皮が、小さな砂が、内側から胸元でざらざらと音を立てる。
 嫌悪感と強い恐怖が判断力を鈍らせた。カリアラは混乱のまま身をよじり、水の流れを読もうともせず、なんとかここから逃れようと意味のない動きに徹する。首元の長い傷から水が入り、目鼻や耳からこぽこぽと空気が逃げた。やがて水は顔の内部全てを満たし、神経を揺るがしていく。眼球の真裏も頬も、全て水が冷やしていく。彼の体は完全に水に満たされた。
 すると、あちこちに石を感じる。体内の各部位に設置された、魔力を呑んだ冷たい魔石。それらの正確な位置を感覚として掴めてしまう。それだけではない、木でできた部品の形、鉄のねじ、鋼の薄板。一つ一つがどのように組み立てられて、どのように神経で魔石と繋がれているのか。それが中から、内側から、まるで視覚化されたように理解できた。
 カリアラは“視る”。硬質な石から溶けるように青いもやが消えていくのを。そして確かな目が見る視界に出ては、水にもまれて消えていくのを。それは命が失われていく光景だった。
 気がつけば体が動かなくなっている。カリアラはぼんやりとして、水に煽られては煙のように消えていく生命力を眺めるままに流されていく。体を水が通り抜けていく。まるで、抜け殻になってしまったようだ。
 傍を走る急な流れに引き込まれた。カリアラの体はなすすべもなく恐ろしい速度で流される。大きな岩の気配を感じた。流れはそこに向かっている。水は体を分けているがカリアラにそんな器用な能力はない。感情もどこかに消えたまま、尖った岩は近づいてきて――。
 背の砕ける音がした。
 岩の上に乗り上げて、重い頭が水面に出る。ぬるい空気が顔をなでる。
 空を覆う暗雲を最後の景色に、彼の意識はそこで絶えた。

※ ※ ※

 ぬるい風が湿気をはらんで七人の傍を抜ける。
「あの空き地! あそこだ!」
 必死に遠くを示すのは、ぬれねずみになったピィス。その隣では、ロウレンたちが意識のないカリアラを運んでいる。カリアラの体からは魔力が消えて、まるでただの人形のようになっていた。揺れるたびに傷口から水がもれる。重く、運びづらい荷物に小柄な彼らの息は上がった。
「わかった、みんなは先に行って! 印を示して!」
 カレンは杖を握るとぬかるんだ道に止まる。そしてピィスの指した先、丘の上に小さく見える木々の開いた入り口を、覚えるように睨みつけた。口早に呪文を唱える。兄弟たちは二手に別れた。一方はカリアラの体を道に横たえて転移に備え、もう一方は行き先へと先駆ける。先陣を切ったのは俊足自慢のルウレンだろう。続く一人は遅れながらも、ピィスをうながして正確な場所に同伴させる。ピィスはふらつきながらも獣道を這い上がった。背後からカレンの呪文が聞こえる。
「『跳べ』!!」
 発動と共に強い力が風となって屈むピィスの傍を抜けた。風は空き地で手を振るルウレンの元にたどりつき、黄色の光に変化する。塊となったそれは少しずつ薄れていき、中の人影をあらわにした。ピィスは彼らの元に駆け寄る。雨を浴びた空き地では、横たわるカリアラが五つ子に囲まれている。カリアラの目には光がなく、意識のないままただ空を向いている。転移を成功させたカレンが濡れた地面にへたりこんだ。
「せ、成功……」
「ありがとう! で……」
 ピィスは空き地を見回して、ためらう。これからカリアラを運び込むのは、世間には秘密にしているビジス・ガートンの隠れ家だ。五つ子たちは川に落ちたのを見て駆けつけてくれ、さらには岩に打ち上げられたカリアラをここまで運んでくれた。二人を助けてくれたのだ。だが、この家を知られるのは……。
 ピィスの目はカリアラに向かう。魔力が抜けてしまったために、肌も髪もただの素材に近く戻りかけている。確かめると、生命力すら今にも消え入りそうだった。一刻を争う事態だ。サフィギシルの都合になど構ってはいられない。ピィスはタグを使うために袖を引いた。
 だがその動きも息も止まってしまう。目が大きくみはられる。
 タグはどこかに消えていた。
 封印を解くための鍵。ピィスにとって唯一の通行手段。それがなければ家の中に入るどころか、目に見ることすら叶わない。
「ねぇ、これからどうするの!?」
 カレンが叫ぶ。だがピィスは動けない。
 心臓が早鐘を打つ。悪寒がじわりと広がっていく。頭の奥が麻痺を覚える。
「早くしないと! ああ、生命力が消えてくよ!!」
 震える手でどこかにタグがまぎれていないか体中を確かめた。だが指先が薄い鋼を確認することはなく、絶望感だけが実感をともなっていく。
「魔力を受けつけないんだ! 大変だよ、魂が!!」
 ああそうか、ラウレンは魔術技師だった。どこか遠くで冷静なことを思う。
 ピィスはふらりと雑草はびこる荒地に向かい、わけもわからずただ叫んだ。
「サフィーっ! サフィギシル――っ!!」
 返答はない。声は空き地に消えるだけ。
 それでもピィスは彼を呼んだ。絶叫に近い声で唯一の希望にすがった。
「サフィギシル――っ!! バカヤロー出てこ――い!!」
 だがやはり、反応は返らない。空き地はただ静かなまま冷たい色で広がっている。
 大きく叫んだ反動で、ふっと体の力が抜けた。途端に涙がこみあげて、雨粒のように流れては冷えた頬に熱を伝える。ピィスは洟をすすって続けるが目の前には何ひとつ現れない。家の輪郭すら見せない。
「ばか……バカやろ――!! 出てきやがれ――っ!!」
「ねえ! 何やってんの、何もないでしょ!?」
 カレンが怒鳴る。振り返ると五つ子の全員が不安な目を向けていた。何をしているのかとおびえる顔つき。
 あふれる涙に彼らの顔がぼやけていく。ピィスはうつむいて乱暴に目をこすった。
 兄弟たちの囁きが耳に入る。
「サフィギシルって……」
「ほら、技師だった。死んじゃった人」
「死んでねぇよ!!」
 やけのように怒鳴る。戸惑う五人と目が合うがそれ以上は何も言えない。ピィスは彼らに背を向けて、もう一度空き地を見た。何もない。気配も音も霧でさえも。風ですらそこを抜け、伸びすぎた草をなびかせる。今までのことはすべて幻だったとでも言うかのように、家は姿を消していた。
「死んで……」
 膝をつく。ピィスは崩れる体を手で支え、ひれ伏すように頭を下ろす。ぬかるんだ地に額をつける。酷い頭痛に意識がぼやりと泳いでいく。
 目を閉じる。過去の記憶が鮮やかに蘇る。

 いつもの布団に包まって、ゆっくりと息を引き取った母。
 現実味のない簡素な手紙。

  ――嘘だ!

 そう叫んでも、あの人たちは二度と帰ってこなかった。
 記憶は時代を流れていく。あの時のことを思い出す。

  ――爺さん?

 体を折り、ベッドの上にうつ伏せた老人。そして同じ部屋の隅で、床に投げ出された手足と、白い髪。
 サフィギシルは息もなく倒れていた。いくら揺すっても目を覚まさなかった。
 嘘だ、とまた叫んだ。それでも彼は動かなかった。



 ピィスは静かに顔をあげた。大きな目は潤んだまま、濁ったように虚ろいでいる。
 それが、幻を探るように何もない空き地を見た。ただの広がる景色を見つめた。
 泣き出しそうな息を吐き、よろけながら、袖で涙を拭いながらカリアラの元へ向かう。
(オレには直せない)
 震えながら足を進め、悲観に包まれて思う。
(また、何もできない)
 また。その言葉が繰り返し思考を巡る。何もかも忘れて泣きわめきたい気持ちになる。
(だめだ、だめだ。何とかしなきゃ。なんとか、助けなきゃ)
 心配そうな五つ子たちには構わずに、カリアラの側に座り込んだ。心臓部に手をあてる。反応が薄れていくのが嫌でもわかった。彼の命は適切な処置を得られず消滅へと向かっている。
(でも、どうやって……)
 また涙がこみあげてきて、ピィスは思わずうつむいた。そして目が釘づけとなる。
 強く握った形のままの、カリアラの右手から、先のちぎれたぼろの紐が伸びていた。
 ピィスは震える手を動かして、水掻きで繋げられた彼の指をこじ開ける。
 軽く開いたカリアラの手のひらから、薄汚れた鋼の板がこぼれ落ちた。

 タグだった。

※ ※ ※

 穏やかな赤色の波が視界中に広がっている。赤い粒は穏やかな水の中でやわらかくそよいでいた。水草に産みつけられた多くの卵。薄い膜の中に詰まっているのは、稚魚のための栄養と、さやかな命の種。
 赤色の波はゆらゆら揺れる。繊毛にも似たその中に、カリアラは潜んでいた。
 カリアラは前方を見つめている。卵の奥で揺らいでいるのは死した魚。そしてそれを掴む人魚。
 カリアラは彼女を見つめる。人魚はゆっくりと口を開く。
 まだ幼い彼には彼女が何を言っているかわからない。魚の言葉も人魚の言葉も知らない彼は、じっと彼女を見つめるだけ。
 人魚は顔をわずかに歪める。そして今しがた魚を殺したばかりの手を、そっとこちらに差し出した。
 カリアラはただ彼女を見つめる。
 自分を助けてくれた人魚を。



 唐突に、過去の景色が暗転する。カリアラは暗闇の中で目覚めた。
 まぶたのことを思い出すのに結構な時間がかかった。遅まきながら目を開ける。見えたのは、知っている天井だった。初めて人の体で起きた時と同じもの。作業場の奥にある、普段はサフィギシルが使っている寝室だ。
 カリアラはふと傍らの気配に気づき、そちら側に頭を向ける。全身がやけに軽く、どうしたのかと思った瞬間、また視界に鮮やかな赤が広がる。
 カリアラの目に映ったのは、伏せたピィスの頭だった。その短い赤髪が、一瞬だけあの卵と同じに見えたのだ。カリアラはぱちぱちと目を瞬かせて見つめ直す。
「ピィス」
 うつむいていた顔が勢いよく上げられた。ピィスは目を見開いて、息すら忘れてカリアラを凝視する。
 そしてすべてをくしゃっと歪め、弱々しく泣き出した。
「よかったあー、もうダメかと思った……」
 カリアラは仰天して体を引く。おそるおそるピィスの顔を覗き込んだ。
「ど、どうした? 大丈夫か?」
 ピィスは涙をぼろぼろとこぼしながら、かすかな嗚咽を立てている。椅子の上に縮こまり、包まる毛布を握りしめては震えながら泣いていた。カリアラは青ざめて体を起こし、落ちつきなくあたりを見回す。
「み、みみ水っ。目から水がっ」
 困った顔でおろおろと視線をあちこち迷わせる。そしてふと思い出し、頭の中で反芻すると、確かめるようにうなずいて、手をあげた。
 カリアラは手のひらをまっすぐ伸ばし、ピィスの頭にぽんと乗せる。
 ピィスは不思議そうに彼を見上げた。カリアラはその視線にも構わずに、もう一度ぽん、と頭を優しく叩く。
 沈黙。
 ピィスは何か言いたげにしているが、カリアラはそれを見ずに繰り返す。ぽんぽんと、何度も何度も小さな頭を叩き続けた。そしてまた唐突に手を止める。
「あ、違う」
 急に悩む顔をして、ああだったかこうだったか、と手をやたらに動かした。
「……カリアラ?」
 涙の余韻で湿った声が彼を呼ぶ。カリアラはそれと同時に「ああ!」と笑った。
「背中だった。ほら、叩いてやるからあっち向け」
「待て」
 続く声は既にいつもの呆れた響き。ピィスは涙を拭き取ると、落ち着いた目でカリアラを見た。カリアラは大きく安堵の息をつき、口元をやわらげる。
「なんだ、治ったな。頭でもよかったのか」
 彼はやれやれと言わんばかりにベッドの上に座り直し、まっすぐにピィスと向き合う。
「子どもが目から水出してたとき、母親が叩いてたんだ。そしたら水止まったから。よかったな、お前も止まったな」
 カリアラはにこにこと笑っている。ピィスはうつむいて頭を抱える。
「うわ、どっと疲れた。心配して損したかも」
「なにがだ? ……あれ、おれどうなってたんだ?」
「川で溺れたんだよ」
 疲れたように吐きながら、ピィスは椅子に座りなおす。
「あ、そうか。お前が落ちたから。大丈夫か?」
「人の心配より……」
 そう言いかけて、首を振った。ピィスはカリアラの目を見つめ、真摯な顔で言いなおす。
「大丈夫。ありがとう。ごめんな」
「何がだ?」
 謝罪の理由が掴めずに、カリアラは不思議そうな顔をする。ピィスは困ったように考えて、近くの机に置いていたタグを取って彼に見せた。
「これ。……オレが川に流しちゃったから、お前、取りにいったんだな。気づかなかった。急にまた川に入ったから、どうしたのかわかんなくてびっくりしたよ」
「流れるのが見えたからな。それがないと帰ってこれないんだろ? ……あれ」
 カリアラはふと叩いていた手を見直した。そこにはただの人の肌。
「うろこ、ないな」
 銀のうろこも水掻きも、すべてきれいに消えている。体中を確かめるが、街に行く前と同じ、まったく人と同じ外見。カリアラは嬉しそうに笑う。
「じゃ、また行けるな。街」
 ピィスは暗い顔になった。笑う彼を痛ましく思うように、言いづらそうに口を開く。
「……体は、サフィが直してくれたんだ。だからもううろこはない。でも」
 きょとんと見つめるカリアラの目から逃げるように、ピィスは弱くうつむいた。
「もう、街の人に顔とかバレちゃったし……あんな騒ぎ起こした後だから、行ったらまた……」
 続きは待っても出てこない。その代わりに流れるのは重い沈黙。
 気まずい空気を破ったのは、カリアラだった。
「そうか」
 落胆の滲む声。ピィスは口をきつく結び、複雑な思いの目で彼を見る。
 カリアラは静かに続けた。
「じゃあ、どうすればまたあそこに行けるんだ? おれ、何をすればいい?」
 その声にも表情にも諦めは浮かばない。ただ何かを信じるように、求める目でピィスを見つめる。ピィスはそれを受けきれず、また視線をそらしてしまう。
「わかんねぇ」
 ピィスはうつむいたままに続ける。
「……なぁ、ここじゃだめなのか? サフィはあんなんだけどさ、シラもいるし、オレも毎日遊びに来るよ。オレんちになら来ても大丈夫だし、そしたら、うちまでは五つ子も……あいつら助けてくれたんだ。あいつらにも会える。親父もいるしさ。な?」
 だが請うように見上げた先で、カリアラは首を横に振る。ピィスは顔を弱らせた。
「そうだよな。……ずっとここだけで生きてくのなんて、嫌だよな」
 カリアラはあたりを見回す。狭い部屋を囲むのは、全てを隠す白い霧。不自然な、時間の止まったような家。カリアラは遠慮がちにうなずいた。ピィスは黙り、またうつむく。
 そして、ぽつりと呟いた。
「帰るか?」
 ぴくりと動いた彼を見ず、ただ自分の手元を眺めて喋る。
「……今回はほんと、もう助からないかと思ったよ。でももう元気になってる。生命力が、後から後から湧いてくるってサフィも驚いてた」
 ピィスは毛布をいじりながら、所々詰まらせながら話を続ける。
「これなら体を変えても平気だろうって。だから、それ、ほとんど新しい体なんだ。心臓石とか、脳とか、顔とかはそのまま移したけど、他はもう直すよりそっちのが早いからって。それで、移植し直したのにまだ魂も生命力も力強いって言ってた。まだ何回でもいけるんじゃないかって」
 それで。と言葉を止めた。少しの間沈黙し、口を切る。
「魚の体、まだ保存してあるんだ。サフィが言ってた。術かけてるからまだもってるって。だから……戻ろうと思ったら、いつでも魚に戻れるんだ」
 言い終わると不安そうにカリアラをうかがう。カリアラは首を横に振った。
「嫌だ」
 ピィスはほっと顔を緩ませた。だがそれもすぐに曇り、心配そうに口を開く。
「……お前さ、なんでそんなに人間になりたいって思うんだよ。人間ってそんなにいいもんでもないんじゃねーの。人型細工は長時間は水中に居られない。このままじゃ、もう水にも戻れないんだ」
 カリアラは静かに聞いている。その表情に戸惑いながら、ピィスはどもる口を動かす。
「慣れない場所で、慣れない体で、街の人ともうまくいかなくて。本当にいいのか? ……お前、このままで幸せなのか?」
「しあわせ?」
 カリアラはきょとんとして訊き返す。
「しあわせってなんだ?」
 ピィスは言葉を詰まらせた。頭の中で模範の言葉を探るように、しばし目を泳がせる。
「えー、なんかこう……すっげぇ嬉しいとか。もう死んでもいい! ってぐらい嬉しい気持ちのこと、っていうか……」
「死んでもいい? 何言ってんだ。そんなこと思うやつ、いるわけないだろ」
 カリアラは怪訝に眉をひそめた。納得が行かないのだろう、不可解げに尋ねてくる。
「人間は死んでもいいって思うこと、あるのか?」
「いやー……そういえば、オレはまだないけど。結構いると思うよ、そういう気持ちになったことがあるやつ」
 ええっ。と声を出して驚いて、カリアラは難しく口を曲げた。
「わかんねぇ。人間ってへんだな」
「そ、そうかなー……えー、うーん……って、そうじゃない」
 ピィスは組みかけていた腕を外し、真剣な目で言い直す。
「オレが言ってるのは、ホントに人間でいいのかってこと!」
「いい。人間がいいんだ」
 カリアラはあっさりと言い切った。迷いのないそれにピィスは眉をねじる。
「なんで? なんで、そんなに人間になりたいって思うんだよ」
 カリアラは静かにピィスを見つめた。ピィスは、戸惑うしぐさで体を引く。
 黙りこんだカリアラは、思案するよう視線をあちこち動かしていたが、やがておもむろに口を開いた。
「おれはな、」
 そして彼は、たどたどしく話し始める。


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