第1話「やたら陽気な誘拐犯」
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 空気すら止まる音のない作業室で、彼は『手』を作っていた。既製の木型に部品を詰める。歯車、木片、鉄のネジ。一つ一つあるべき場所に収めていくと、組み込まれたそれらは弧を描いて一つの穴を作り出した。そこに、研磨された石をはめる。深く青く澄んだ宝石。魔石と呼ばれるそれは大量の魔力を呑み、その力をもって部品を動かす動力源の役目をなす。サフィギシルは沈黙するその石から細部へと、神経と称される特殊な強い糸を張った。蜘蛛が巣を作るように部品間を接着し、魔力が全てに行き渡るよう設計通りに路を作る。
 一度、作りかけの手を遠ざけて、細めた目で全体を見直した。細かい網のような内部に問題は見つからない。息をつき、内部を剥き出しにした『手』を、薄い木の板を繋ぎ合わせた外殻で覆う。さらにその上から人工皮と呼ばれる織布を被せ、指先で隅々をなでて密着させた。慎重に全体を包み込むと、ぬいぐるみでも扱うかのように、布の端を丁寧に糸で縫いつけていく。
 呪文を唱える。光を纏った指の先を、布地に細かく這わせていく。彼が指を進ませると、ただの布は本物の人の肌と変わらない見た目になった。肌色の表面に、微細な皺を走らせながら『手』の指先へと進んでいく。今しがた組み立てたばかりの関節を、一つずつ本物らしく変えてゆき、貝をはめた爪ですら血の色を透かす生身へと見せかけた。
 呪文が止まる。光も消える。空間を支配していた緊張感がふつりと絶えた。
「…………」
 改めて見返すが、持っているのはどう見ても切り取られた人の手首。サフィギシルは用意した筒をその根元にはめ込んだ。ある程度の長さができて、まるで肘のようになる。筒の中には、ささやかな光の粒が迷うように舞っていた。
 サフィギシルはしっかりと筒を掴み、握る指に力をこめる。すると筒の先の『手』が従うように拳を固めた。サフィギシルが指を上げれば同じ指を『手』が上げる。本当に人がそこにいるかのように、不自由なく自然に動く。
「……よし」
 満足そうに呟いたところで、足音が近づいた。前ぶれもなく部屋の扉が開けられる。
「外出ていいか?」
 ひょこ、と顔を覗かせたのは、つい先日完成させたばかりの『作品』。目を凝らしても平凡な人の男にしか見えないが、彼はこの『手』と同じ工程を重ねて作り上げた、人型細工と称される木製の人形だった。ただし人形とはいっても、思うがままに動き、喋り、食事や睡眠までもが可能である。人型細工はこの世で一番人間に近い作り物といえた。
 そんな大層な体だと理解できているのかどうか、彼はきょとんとした丸い目をサフィギシルに向けて問う。
「なあ。外出ていいか?」
「駄目だ。ノックも知らないピラニアは大人しく座ってろ」
 新しく定められた彼の名は、種族名をそのまま縮めてカリアラということだった。ちなみに、元人魚のシラフリアも愛称としてシラと呼ばれるようになった。カリアラが魚の時は、二拍の合図で彼女を呼んでいたためらしい。
 カリアラは赤みがかった濃茶の目をきょろきょろと迷わせた。
「そういえばさっきもなんか言ってたな。ノック。……ノック?」
「言ったんじゃなくて教えたんだ。一回で覚えろ。こうだ」
 サフィギシルは作ったばかりの『手』を使い、机に向かってノックする。コンコンコンと小気味よい音がした。
「そうか。よし、わかった。やってみる」
 と言ってうなずいたカリアラが廊下に出てドアを閉め、悩むように少し時間を置いたあと、コンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンと永遠に続かんばかりのノックが聞こえてサフィギシルは頭を抱えた。
「三回でいい!」
 カリアラはまたひょっこりと素朴な顔を覗かせる。
「そうか」
「…………」
 本当に理解しているのかはわからないが、あまりしつこく追求するのも疲れるので黙り込み、サフィギシルはそのまま『手』で彼を招く。カリアラは問題も障害も感じさせず、散らかった本や工具や石の山を避けながらやってきた。乱雑なそれらを軽くかわしつつ、迷路のような細い道をたどりたどって机まで。
「なんだ?」
「…………」
 サフィギシルは口を開けて見ていたが、気を取り直して問う。
「お前、足が痛くなったり、関節から変な音がしたりしないか?」
 カリアラは確認するよう体をあちこち動かして、全然しないと言いきった。サフィギシルはさらに問う。
「頭がぼんやりしたり、目の前にあるものが見えたり見えなかったり、気がついたらちょっと意識が途切れてたりは?」
「いや、別に。お前はするのか?」
 サフィギシルは逆に問われて戸惑うが、首を振った。彼は降って湧いた違和感にとらわれながらも話を変える。
「……まぁ、ないならいいんだ。あっちでシラと遊んでろ」
「おう。じゃ、また訊きにくる」
 言われたことを特に気にする風でもなく、カリアラはまた軽々と物を避けて部屋を出る。その諦めの悪さにサフィギシルはまたうんざりと首を振った。
「来なくていい。何回訊いても答えは同じ。外には出るな」
「…………」
 カリアラは振り返ったが、今度はそうかと言わなかった。



 彼の去った後を眺め、サフィギシルは不可解げに眉を寄せる。
「七日だぞ?」
 たったそれだけで、カリアラは新しい体に馴染んだ。通常ではありえない日数だ。人間の場合でも、思い通りに動かすには何倍もの日にちがかかる。上手くいかない苛立ちや節々の痛みのために、動くのを面倒がって寝たきりになる者もいる程なのだ。人型細工は人に一番近いというが、大病の後のように慎重な慣らしの要る体と言える。元々四肢を扱っていた人間がこうなのだから、勝手の違う魚あがりはどうなることかと思われたのだが。
 サフィギシルは、カリアラを人型の体に移す作業を思い出す。移植のために触れた彼の魂は、この家に安置されたどの動物の魂よりも強い力を持っていた。その生命力は人に匹敵するほどで、魔力にいたっては人間以上に濃く大量。魔力魚と言われていたのは本当のことらしい。少なくとも、あらゆる意味で普通とは違う魚のようだった。
「カリアラカルス、ねぇ」
 『手』を放り出し、やる気をそがれて肘をつく。ふせるには邪魔になる部品のくずを退けていると、ふと本棚に目が行った。並んでいるのは百科事典。思わず取ろうと体を起こすが、積み上げられた箱や本や部品の山を片付けなければ届かないと気がついて、机にふせる。
「……関係ないさ」
 そのままに目を閉じて、彼は静かに眠りだした。

※ ※ ※

 作業室のドアを閉めると、隣の部屋からシラが出てきた。カリアラは彼女が持っているものを見て、口を開く。一冊の薄い本。サフィギシルには書庫から本を持ち出すなと言われていたのに、シラは悪戯めいた笑みを浮かべて人差し指を口に当てる。カリアラは素直に言葉をのみこんだ。居間へと続く廊下を歩くと、シラもまたひょこひょこと歩きなれない様子で続く。まっすぐに伸びる道を半分ほど行ったあたりで、二人はようやく口を開いた。
「だめだった」
「でしょうね」
 カリアラは立ち止まり、不満げに窓の外を見る。
「じゃまだな、あれ」
 そこには一面の霧が広がっていた。濃く、奥の見えないそれは家中を包んでいて、外の景色を見せてくれない。手を伸ばしても自然にくにゃりと跳ね返される奇妙な霧だ。
「少しわかりました。あれは封印の一種で、外部からの進入を防ぐためのものだとか」
 シラは持ち出した本を見せる。字の読めないカリアラには読むことができないが、絵のないそれはやや薄めで使い込まれた形跡がある。手ずれの残る何ページかに、折って印をつけた跡。
「魔術の教本のようですね。少し古いようですが……」
 シラが、ふと背後を察した。誰もいないが、彼女は何かを気にするように彼を誘う。
「戻りましょう。冷えますよ」
 しんとした空気の廊下を進み、二人はそのまま定位置となった居間へと戻る。


「なんで外出ちゃだめなんだろうな」
 いつものように二人掛けのソファに座り、カリアラは不満そうに外を見つめた。目の前には彼の背ほどの窓があり、横庭へのドアにもなっている。だが枯れ果てた植木がちらほらと見えるだけで、あとはただひたすらに白い霧ばかりだった。カリアラはここから何度も飛び込んでは跳ね返されることを繰り返し、今朝になってようやく諦めている。
 サフィギシルが見ていれば馬鹿にされていただろう。だがまだ若いこの家の主人は、食事を作りにくる時以外は作業室から出てこない。カリアラとシラが一日中ここでなごやかに過ごしていても、サフィギシルには自ら輪に加わろうという意識がないようだった。話しかけても二、三返してすぐにその場を去っていく。いつまでもそうなのだから、家主と居候二人の関係が近づくことはない。サフィギシルが手ずから作った食事も、食卓に並べた後は彼自身の分だけを部屋に持ち込んでいる。ただ、そんなサフィギシルもシラに対する時だけは、温和に態度を変えているが。
「サフィさんは、外が嫌いなんじゃないでしょうか」
 シラは何かを探すように、部屋の隅に置かれた戸棚をくまなく開いている。
「もしくは外に、苦手な何かが存在するか。あの霧は、誰も入れないようにするのが目的の術のようですから」
 カリアラが人間になってから七日が経つが、サフィギシルが外出する気配はない。ひと月以上彼と過ごしたシラによると、一度も外に出るのを見たことがないという。食料や諸々は、ペシフィロが定期的に持ってきてくれるらしい。ペシフィロはシラの推測によると二十代後半か三十代。サフィギシルは二十一と言っていたからいくらか歳の開きがある。彼らの関係も、どういったものなのかわからないままである。
 サフィギシル本人に尋ねるどころか長く喋るきっかけもなく、二人はただ一日中家にいろと言われている。町外れの一軒家は意外に広い二階建てで、おおよそ一人で住むには似合わない。二人にそれぞれ与えられた個室には、ベッドや寝具が揃っていた。服にしても、老若男女のものが大量に保管されている。食器などもやけに多く、不自然さを裏付けた。まるで家族がごっそり消えた、抜け殻のような家。
 それらは全て彼の仕事、魔術技師の工房という特性から来ているのだろうか。魔術と技術を混ぜて使い、便利な機械や人の体を作る仕事。この家は作り出した人型細工などの『作品』が、買い手へと渡るまで生活する場ということか。だが少なくとも、サフィギシルが依頼を受ける気配はなかった。この家にはペシフィロ以外、外の者がやって来ない。
 霧の幕が原因なのか、世界の音が聞こえてこない奇妙に静かな一軒家。この家とサフィギシルという人間は、深い霧によって世間から隔離されているようだった。カリアラはその現状が気に食わない。シラのように細かい推理を立てるほどの知能はないし、彼女が説明することもあまり理解はできないが、動物としての本能で違和感を捉えている。この家は、普通ではない。こんなにも謎が多く、状況を把握しきれない場所では彼は落ちつくことができない。不安なまま、カリアラが指を動かして遊んでいると、シラがはさみを持ってこちらをうかがっているのに気づく。
「髪、切ってもいいですか?」
「なんでだ?」
 シラは優しく笑うのみ。カリアラは大人しく背を向けた。
「少しですから、大丈夫ですよ」
「…………」
「頭、ちょっと寄せて下さいね」
 シラはソファの後ろからカリアラの頭に触れ、しなやかな指で彼の髪を梳き始めた。元は金色だったはずのそれは、陽に焼けて退色が進んでいる。どうやら髪の素材が出払っていたようで、かろうじて残っていたのは窓辺に放置されていたもの。染め糸の集まりだったそれは、サフィギシルの術にかかると本物の質感を得た。魔力がそれを人間らしく見せているのだ。
「後ろの方、少しむらになってますね。飛ばしておきます」
 色濃く残った端を軽く飛ばしていく。元々が長くないのであまり多くは切れないが、シラは少しだけでも満足そうに、楽しげにはさみを操る。切った髪が少し飛んでカリアラの服に落ち、彼はそれをつまんで眺めた。
「ちょっと似てるな」
「何にですか?」
 シラは聞きながらもまだ飛ばすべきところがないか、髪を指でなでて探る。
「色。シラのと」
「ああ、そうですね。同じです」
 彼女の髪は、水に濡れればうっすらと虹色の光彩を散りばめたようになるが、完全に乾いた今は、つやのあるごく普通の金髪だ。彼女の髪は蜂蜜のように深くとろける色をしている。カリアラのものは触れなくても手ざわりの悪さがわかる、土色に近い金だ。色の濃さがかなり違うが、大まかな分類としては同じと言っても嘘にはならない。
「おんなじか」
「同じですよ」
 カリアラは嬉しそうに、ほんの少し口元をほころばせた。
「いいな。それ」
 振り返ってシラを見上げる。シラもまた、嬉しそうに笑っている。彼女ははさみを置くと小さな紙に髪を包んだ。畳んだそれはポケットに潜ませる。
「同じですよ。これからは、同じです」
 くすくすと笑いながら首を抱いて回り込み、彼の隣に腰かけた。楽しそうに自分と彼の背丈を比べる。
「あんなに小さかったのに、私より大きくなっちゃいました」
「うん。シラが低いの変な感じだ。いいな、上から下まで全部ちゃんと見える。おれの後ろは見えないけど」
「そういう時は首を回せばいいのよ」
 言っている意味がわからないカリアラの首を、両手で後ろに動かしてやる。カリアラはそれでようやくそうだったとうなずいた。人間の目は魚よりも可視範囲が狭く、前を向いたままでは後方を確認できないのだ。前後左右を見回しはじめたカリアラに、シラは声を揺らして笑う。
「別に、ここでは警戒しなくてもいいんですよ」
「そうか」
 だがカリアラは何かに気づいて首を伸ばした。緊張した面持ちで、あらぬ場所を見る。
「……何かいる」
 慎重に立ち上がり、更に察知をつめるよう隅々に気を巡らせる。警戒する彼の様子にシラが顔を曇らせた。
「外に?」
「中だ。サフィじゃない、別の人間……あっちだ。行ってみる」
 同じく立ちかけたシラを座らせ、カリアラは居間を出た。


 廊下には誰もいない。窓の外にも誰もいない。隣にある物置部屋にも、誰もいない。書庫を見ても大量の本が並ぶだけで、人間らしき影はない。その隣の部屋、サフィギシルのいる作業室へと意識を移したその瞬間、確かにあった何かの気配は唐突に形を消した。カリアラの知覚には、色のないもやのような、ぼんやりとした残留感だけが残される。逃れるそれを追い詰めようと探ってみたが、たちまちに空気へと消えた。残ったのは立ちつくすカリアラだけ。不可解そうにまだきょろきょろと見回して、彼は階段に目をつけた。迷わずそこを上っていく。
 下より狭い二階にあるのは四つの部屋で、上がって手前の二つがカリアラとシラそれぞれに与えられている。奥の二つには何があるのかわからないが、サフィギシルには、絶対に入るなと言われていた。
 あかずの間、とシラが呼んだ部屋たちは、沈黙したまま何の気配も生み出さない。カリアラはその二つの扉を交互に眺めて迷っていたが、諦めて踵を返す。が、廊下の隅に、隠されているような、解りづらい小さな戸口を見つけて足をとめた。低いそれは扉というより収納の入り口のようであり、屈まなくては入り込めない程度の物だ。
 戸の奥に気配はない。だが好奇心をそそられて手をかけた。戸は引くものではなく丸ごと取れる板状で、その奥は狭い空間となっていた。床板には穴があり、一本の棒が顔を出している。黒色の棒はどうやら階下まで繋がっているようだった。握るとかたかたと音がして、わずかにだが動く。下ではなにやら大きなものにぶつかっているような感触。
 カリアラは距離を詰め、小部屋の中に入り込むようにしてその棒を動かしてみた。手前に引くと何かに当たり動かない。左右に振ると空振りする。奥に向けて押してみるとまた何かにぶつかった。だが今度は相手が動く。何となくそのまま強く押してみると、しばらくの力比べの後、大量の物体が崩れ落ちる震動と崩壊の音が響いた。埋もれるような人の悲鳴も。
 カリアラはとっさに聞こえた方へと向かう。階段を降りて見つめた先は、怒りあらわなサフィギシルの声が響く作業室。サフィギシルは混乱から言葉になりきらないようで、意味の取れない謎の叫びを繰り返している。突然の大事態にカリアラはおろおろと廊下の途中に立ちつくした。
「どうしたんですか!」
 居間から駆け寄ってきたシラに、たどたどしく説明する。
「も、物が崩れた。なんかいっぱい。棒押したら」
「何やってんだー!!」
 ようやく人間らしくなった怒りの声に合わせるように、ガッ、ごと。といやに鈍い音がした。
 その後はただ沈黙。家の中はおそろしく静かになる。
「サフィの気配、消えたぞ」
「……私にもわかります。気絶しただけでしょうけど」
 気まずそうに見合わせると、シラは力なく口元だけで笑う。
「仕方ありませんね。介抱しましょう」
 ため息をつき、彼女は作業室へと向かいかけた。だがそこでカリアラが窓を開けたので、シラは怪訝に振り返る。しかし、彼女もすぐに気がついた。窓の外に広がる霧が、いくらか薄くなっている。その奥にはわずかにだが景色が透けていた。木々の緑に土の色。それらがぼやけながらも間違いなく目に入る。
 カリアラは慎重に外を窺っている。今度はシラも気がついた。
「誰かいる」
「ええ。外に」
 隠しもしない人の気配が二人の野生に引っかかる。カリアラは目で裏口を探った。シラは、そっと窓を閉める。
「私はサフィさんを起こしに行きます」
「おれは外だ。あっちからが一番近い」
 確認の合図もなく、二人は即座にそれぞれの持ち場へ向かった。


 井戸のある裏庭に、カリアラは前方を警戒しながら立っている。いつもよりいくらか薄れた霧の奥では、誰かがごそごそと動いていた。気配は彼に、はっきりと相手の姿を見せている。まだ幼い人間が、一人。目に見えるぼやけた影は、彼よりもかなり小さい。
「お、開くか?」
 相手はこちらに気づいていないのか、ぶつぶつと呟きながら、腕を振って何度も霧に挑戦しているようだ。カリアラはただ黙ってそれをうかがう。いざとなれば戦えるように慣れない体で身構える。
「あ!」
 人の指が霧をかき分けてあらわれた。清潔に切りそろえられた爪が、少しずつもやに開いた穴を広げる。カリアラが見つめる先で、指先は手のひらとなり、腕となり、両手がこちらに差し込まれて穴は大きくに広げられた。
 その奥に、大きな緑の目が二つ。嬉しそうに覗いたそれは、カリアラを見てきょとんと止まる。川底の水草にも似た緑色。それは揺れることなくまっすぐに彼を見つめる。カリアラも、ただまっすぐに見返した。


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