現代日本の地方都市でこんな話をするのもどうかと思うんだが、実は俺の前世は異世界の勇者だったりする。いや本当だ嘘じゃない。冗談を言ったつもりはない。 もちろん勇者というからには当然悪を倒す旅に出て、最終的にはこの手で魔王を倒したわけだ。 普通ならばここでハッピーエンドだろう。だが俺の場合はほんの少し違っていた。 伝説の剣で心臓を貫かれた魔王は、真っ赤な目で俺を睨んで言ったのだ。 「我はまた蘇る……新たな生にて、必ずお前に復讐してみせる……」 そして奴は息絶えた。その、“一代目”の魔王は。 杞憂に終わればどんなによかったことだろう。だが俺は故郷に凱旋した直後、ばかみたいに簡単なことで一生を終えてしまった。その、“一回目”の人生を。 次に目が覚めたとき、俺は見知らぬ女の腹の中で羊水に浸かっていた。 俺はとっさに思ったね。 「昔よく遊んだポルクス川の味がする……」 信じられるだろうか。記憶が残っていたんだ。前世で見聞きしてきたものが、そのまま丸きり新しい脳にこびりついていた。もちろん、魔王の最後の言葉もだ。 そしてそのまま現代日本におめでたく誕生した俺の頭の中には、はっきりと前世での一生の記憶が残っているというわけだ。 それだけならただの「変な奴」で終わる話だ。 ちょっとした電波系とかいうレベルのことで済んだはずだ。 だが忘れもしない小学校の入学初日、俺の人生をがらりと変える出会いがあった。 真新しい席についた俺は、肩を軽く小突かれた。当然のごとく振り向くと、そこに、“奴”がいたんだ。胸元に「みずたに あきら」という名札をつけた“奴”は、目を丸くした俺を見てにんまりと笑った。 「またあえたな、“ひかりのゆうしゃ”」 言うまでもなく、それは俺と同じく転生した魔王だった。 もう想像がついただろうか。 そう、俺たちは何度死んでも転生先で巡りあう数奇な糸で結ばれてしまったのだ。 そして最初の出会いから約十年。俺は自分の部屋で思うが侭にくつろぐ暇も与えられず、魔王との攻防戦に勤しむ日々を送っている。 いま、この時間でさえも。 「なあ勇者ー。……おーい、無視するなー。話を聞くのだ」 いつも通り俺の部屋に堂々と座り込み、奴はかまえと言わんばかりに机の端をトントン叩く。 「なー。ちょっといいこと思いついちゃったんだけどさあ」 「うるせえ黙れバカ魔王」 うざったくて仕方がないので目を合わさずに言ってはみるが、奴はまったく気にしない。冷たい言葉にめげることなく目をきらきらと輝かせ、わざとらしく持参の細長い箱を掲げてみせた。 「ここに包丁があるからいっちょザクッと自殺とかする気ない?」 「誰がするか。帰れ!」 腹が立って片手で払うとわざとらしい声で言われる。 「いやーん冷たーい。女の子には優しくしなきゃダーメデースヨー?」 「隙あれば人を殺しにかかるやつを女として扱えるかー!」 俺がいつものように怒鳴ると、奴もいつもと全く同じにんまりとした笑みを浮かべた。 水谷あきら十六歳、現役の女子高生。前世は魔王。 ……俺は最近、転生というシステムを作り出した神をブン殴りたくて仕方がない。 |