西くんは今日は公文の日なんだって。木下くんは今日は柔道があるんだって。 りっちゃんは今日はお出かけなんだって。ホリくんは今日は風邪で出られないって。 だからぼくはとてつもなくたいくつだ。どうしよう。こんな日は何をしよう。 こんな日は、そう。田中さんと遊ぼうか。 田中さんはうちの近所にたった一人で住んでいる。ずっと前から住んでいる。 どのぐらい前かというと、ぼくのおばあちゃんと昔話ができるぐらい。いつもいつも、あの頃はよかったねぇ、とか、お母さんが子供の頃の思い出話をしている人だ。 田中さんは面白いおもちゃをたくさんもっている。でも、田中さん自身はおもちゃよりももっともっとオモシロイ。田中さんはすごい。すごくすごくオモシロイ。 田中さんはいつもいつもタバコをすう。田中さんのタバコは、お父さんのタバコとはぜんぜん違う。田中さんのタバコは、茶色くてちょっと紫が入った黒っぽいケムリを出す。他の人からもらったタバコも、田中さんが吸うといつもその色になる。 田中さんはいつも服を着ていないように見える。ぼくはりっちゃんが言うまでそのことには気がつかなかった。りっちゃんは頭がいい。それで、田中さんのことがちょっと好きじゃないみたいだ。だからりっちゃんは、田中さんに服を着なさいって言った。田中さんは困ったように、自分の体をじっと見た。それで、こう言った。 「あのね律子ちゃん、この銀色のは素肌じゃなくて、一応僕の服なんだけど……」 りっちゃんは泣きながら丘をかけおりていった。次の日学校で、「あれはひきょうだ」と言っていた。 田中さんはそんな感じですごい人だ。だからぼくは、田中さんが大好きだ。だからぼくは、今日は田中さんちに遊びに行くことにした。それに、聞きたいこともあったし。 ぼくはきのう、テレビでフシギなものを見た。それがすごくすごくフシギでわかんなかったので、田中さんに聞いてみたいと思ったのだ。 田中さんちは学校のうらのおくの丘の上のほうにある。トタンと古い木でできた、ちょっとぼろっちい、なんだか薄暗い家がそれ。ぼくはいつものように草ぼうぼうの丘をてくてく歩いていって、ごわごわのカタマリのようなその家が見えたところで大きな声で「田中さーん!」と呼んでみた。 そしたら、田中さんは飼っているぎんぺか犬のルイスルートにかまれながら、丘の上からごろごろごろと転がってきた。ルイスルートはきゃんきゃん言って、怒ったようにどこか遠くへ逃げてった。 田中さんはアイタタタ、と言っている。腰をさするとそこがぐねぐね緑色に変化した。 「田中さん、犬にげたよ?」 「ん、ああ、まあすぐに戻ってくるさ。あー痛い痛い」 田中さんは痛すぎて、顔がはんぶんこげ茶色になっていた。 「どした、よっくん。遊びに来たの?」 「うん。あ、でもねでもね、今日は聞きたいこともあるんだ。田中さんきのうテレビ見た?」 ぼくはきのうのテレビを思いだす。『きそうてんがいひみつとくそうぶ』とかいうその特番で、おかしなことを言っていたのだ。 「ううん、うちテレビないもん。なんか面白いのやってたの?」 「面白いのもあったけど、そうじゃなくてね、テレビでね、変なこと言ってたの。なんかね、『うちゅう人は本当にいるのか!?』とかって」 田中さんの銀色の大きな顔が、変な感じにぐにゃりと曲がる。 「それでゲストの人が『こんなのが本当にいるわけないですよ〜』とか言ってたの」 田中さんがなんだかそわそわし始めた。ぽりぽりとかみの毛のない頭をかくと、そこがむらさき色になる。緑色の宝石みたいなつった目が、ぴくぴくと動きだす。 「変でしょー。どう思う田中さん」 「んー、んー、んー……なんて言うか、そうだねぇ、遺憾かなぁ。いやでもなぁ、実際のところ、世間的にはアレだしなぁ……」 今日の田中さんはなんだかぐあいが悪そうだ。田中さんもカゼなのかな? ぼくはそんなことを思いながら、ハッキリしない田中さんにけっきょくどうなのかと聞く。 「おかしいって思わないの? だって田中さん、うちゅう人なんでしょ?」 「んー、んー……まぁ、世の中広いねってことで」 田中さんはそう言うと、ゆらゆらとゆれながら自分のうちに戻っていった。 ぼくは納得がいかないのでついていった。遠くから、ルイスルートのほえる声が聞こえてきた。 田中さんはうちゅう人だ。なんでかっていうと、本人がそう言っていたからだ。 それを初めて聞いたとき、ぼくはまだようちえんだったから何なのか解らなくて、すぐにその場で聞いてみた。すると、田中さんはこう言ったのだ。 「よっくんは、日本に住んでるから日本人。僕はね、宇宙で生まれて宇宙で育ったから宇宙人。今はここに住んでるけど、いつか宇宙に戻るから宇宙人」 その時ぼくは、田中さんがうちゅうに戻っちゃうのが嫌で、すごくすごく泣いたんだ。今でもやっぱり、田中さんがうちゅうに戻らないといいなぁって思ってる。 田中さんはいつものように、ボロボロのダンボール箱を引きずってきた。田中さんは大人なのに小さくて、せの高さはぼくとあんまりかわらない。あと、頭がすごく大きくて、体はすごくヒョロヒョロしてて、いつもはだがクニャクニャしてる。 だから今日も、クニャクニャしながらハアハア言って、重いそれを持ってきた。 「はい、好きなの使っていいよ」 中には田中さんちのおもちゃがぎっしり。 僕はえへっと笑ってしまう。だから田中さんと遊ぶのはやめられない。 「いやもうゴメンねえ、四十年も持ちネタ全然変わんなくて」 田中さんは古い古いこうせんじゅうを取り出して、それをまた箱の中にほっぽった。ビー玉にぶつかってがちゃんという。箱の中で小さな光がはじけだす。 「だいじょうぶだよ、田中さんのおもちゃ面白いもん」 ぼくはそのパチパチいってるビー玉を一つつまみ、薄暗い部屋の中でじっと見つめる。透明なガラスの中で、小さな小さなセンコウ花火がぐるぐるとはね回ってた。それがやんでつまらなくなったので、ツメではじくとまたパチパチといいはじめる。すごくキレイ。 「んー、まあアレだよね、昔っから子供心は変わんないってことかね。ゲームもいいけどたまにはこういうもんで遊ばないとねぇー」 「そうだよ。だってぼく、ぐねぐね棒とか大好きだもん」 ぐねぐね棒はぐねぐねしてて銀色で、さわると指にからみつく。それで、はしをつまんでふりまわしたら、色んな形をつくることができるのだ。変なかおとかチューリップとか、ひとふで書きでできそうならどんなのでも。 他にもいろんなおもちゃがある。開けても開けても大きさが変わらない変な箱とか、口につけると勝手にしゃべりだす入れ歯とか、髪をバクハツさせちゃうボウシとか、空中に絵をかける、ちょっと変わった絵の具とか。 「ぐねぐねねー、あれは僕も好きだったなー。懐かしい懐かしい」 田中さんがそういってタバコを吸い始めたのを見てからすぐ、ぼくは見なれないおもちゃを発見してしまった。 小さな茶色のガラスビン。中に何か水みたいなのが入ってる。 「ああそれね、おととい見つけたんだ。部屋の隅っこに転がったまま放置しちゃってたみたい」 「なーに? これ」 「んーとんーと、ええと、シャボダマスイ」 田中さんはときどきミョウなことを言う。 「シャボダマスイ? シャボン玉のこと?」 「ああ、そうそうシャボン玉。それのスイね。液。実家出てくるときに引っつかんで来たやつだから、賞味期限切れてるかもね」 「でも食べないじゃん」 シャボン玉のせっけん水って、どのぐらいもつんだろう。 「ま、そうか。使ってみる? ……あ、ごめんストローないわ。僕ストローいらないからさ」 そう言って、田中さんはクチビルをにゅる〜っと長くのばした。穴が開いててストローみたい。 「そっかー。でもうちにはあるよ。これ、持って帰って遊んでもいい?」 「いいよ、あげる。あれだよねよくわかんないけど、吹いたらぶわーって出てくるんだよね?」 田中さんはプピュー、プピューと変な音で、ストローみたいな口の先からタバコの煙をはきだした。 「いいなあ田中さん。ぼくもそんな口ほしい」 「ま、日本人には日本人のいいところがあるじゃない。頭軽いとかさ」 田中さんはゆらゆらと重たそうに、その頭をゆらしていた。 そっか、うちゅう人もケッコウ大変だったりするんだなぁ。 「んじゃ、これもらうね。ありがとうございました!」 「いやいやどーも。またおいで」 そんなわけで、僕はうちでシャボン玉を作ることになったのだった。 お母さんは買い物に行っていた。またどうせ、コタニのおばちゃんと長話してるんだろう。最近ひとりでるすばんができるようになった、妹のほのかが一人で本を読んでいた。 「あっ、なになにそれなにー!?」 茶色の小ビンを机に置くと、さっそくほのかが飛んでくる。 「シャボン玉つくるやつ。ストローもってきてくれたら遊ばせてあげてもいいぞ」 「うんうん! もってくるー!」 台所に走って行って、しばらくして戻ってきた。ストローを一本にぎっている。 「なんでいっこしか持ってこないんだよー。二人ぶんいるだろ?」 「……だって、いっこしかなかったんだもん」 「じゃあダメー。ほのかはあそべないね」 ほのかが泣き出しそうになる。ぼくはあわてて言いかえた。 「じゃ、じゃ、ストローのかわりになるもの持ってきたら遊ばせたげる。なんかあるでしょきっと。探してきなよ」 妹は泣きだすと長いのだ。しかも、お母さんにチクるからあとあとで大変なのだ。 「うん。じゃあねじゃあね、ほのかのぶんとっててね」 「うん、ちゃんと分けとくよ。ベランダでやってるから」 ほのかはとなりの子ども部屋へ。ぼくは二階のベランダへ。 食器とだなから小皿を一つ取りだして、ハサミをもって上にあがる。上の部屋でにもつを下ろし、ストローのはしっこを細工した。切りこみをいれ花びらのようにひらく。 シャボン玉かあ。ひさしぶりだなあ。 ぼくはけっこうこれが好きだ。しかも田中さんのものだから、ちょっととくべつかもしれない。そう考えるとはやくやってみたくなって、ベランダに出ることにした。 今日はまだせんたくものを取りこんでない。タオルとかパジャマとか、みんなの服がならんでいる。ぼくはそのすみっこで茶色のびんにストローを入れ、それを出して口につけた……ら、お兄ちゃーんって大きな声が近づいてきた。ほのかだ。 「これでいい!?」 「ええ〜、それ〜?」 うれしそうに見せたのは、この間おみやげにもらったハトぶえだ。ねずみ色のハトの形の小さいふえ。 「そりゃアナはあいてるけどさー……」 ほのかの顔が、へにゃっとゆがんだ。ヤバイ。 「じゃ、じゃ、やってみる? ほらコレお前にあげるから」 ぼくは急いで小皿にシャボン玉えきを入れてほのかにわたす。 ほのかの顔が、みるみると明るくなった。調子いいよなあ。 「できるよゼッタイ! おにいちゃんみてて!!」 ちゃぷ。ぐりぐりぐり。木でできたハトのクチバシに、えきをしつこくつけている。クチバシの先には小さなアナ。ほのかはゆっくりとそれをかまえ、ハトのせなかの空気アナを指でとじて、しっぽをアナごと口にくわえ、ピ―――――って吹いた、ら。 クチバシから、とうめいなハトが出た。 「えええええ!?」 ふぼう、と変な音をたててほのかがハトぶえを口からはなす。とうめいハトはパチンと消えた。とうめいでゆらゆらゆれる、うすいうすい風船のようなシャボンハト。 「す、すごいすごいすごい! もっかい吹いてもっかい!!」 「う、うん!」 ピイっと吹くと、またシャボンハトがにゅっと出た。力強く吹きすぎて、ハトはすぐに消えてしまう。 「もっとそっと!」 今度はゆっくりハトが出る。とうめいだけど、光をあびてところどころにじ色に変わるハト。田中さんの体みたい。 すっ、とハトがハトぶえから離れた。シャボンハトはパタパタとハネを動かしそのまま空に飛んでいった。 ピイ、ともう一つ出す。大きく大きくふくらんで、はなれていってまた空に飛んでいく。 もう一つ、もう一つ。ほのかはすっごくうれしそうに、次々ととうめいなハトを飛ばす。 「ね、ね、ぼくにもやらせて」 「だめー。これほのかがもってきたんだもん。お兄ちゃんにはストローがあるでしょー」 「ケチ!」 ためしにぼくもやってみた。 細い細いストローで吹いてみたら、出てきたのも細い細い変なあわ。長細ーいまさしくシャボンストローだった。ちゃんと、はしっこが切れている。 そうか。と、いうことは……。 ぼくは自分の部屋にもどり、つくえとかいろんなところをあさってみた。なにか、なにかシャボン玉を吹けそうなもの。なにかないか、ハトぶえよりオモシロイのが出てくるもの。 ……たてぶえしかなかった。 なので、ぼくはしぶしぶセロテープでふえのアナを閉じてるところ。 いいんだ、どうせほのかはあとで飽きてなげだすから。いいんだ、なれてるから。どうせどうせ『お兄ちゃん』はいつもいつもこんなふうになるもんなんだ。 いいもんね、たてぶえだってオモシロイ。たてぶえがたのシャボン玉ってなんかすっごい変だもの。いいもん。いいもんいいもん。 そんなことを思いながら、ぼくはまたベランダにもどる、前にちょっと考えて、思いっきり嬉しそうな顔をつくる。 「じゃじゃーん!」 と、言いながらほのかの方に行く。 「どーだっ、ぼくこれでやるもんねー。いいだろー」 と、すごくすごく嬉しそうな顔で、たてぶえを見せびらかしてみる。そういうのが人生には必要なんだ。だってほら、ほのかってばポカンとして、そのあとでみるみる「いいなああ」って言いそうな顔になった。 「かしてやんないもんねー」 「えー、えー! じゃあ、じゃあほのかのコレかすからあ!」 心の中ではよっしゃ! と叫びたい気持ちだったけど、くやしいのでがまんして、ゆっくりとふえの先を皿につける。ほのかのだけど、気付いてないから使っちゃえ。 「ねー! ねーねーおにーちゃーん!!」 「ま、かえてあげてもいいけど〜。とりあえず、先にぼくが使うんだからねぇ」 ぼくの声は、今、ものすごくねっとりしてる。 「じゅんばんじゅんばん。さああて先に吹こーっと」 ほのかはウズウズこちらを見てる。早くかわってほしいのだ。なんかすごくうれしい。 ぼくはゆっくりと、必要以上にゆっくりとたてぶえをまっすぐ向けて口にくわえる。 ぼくは年上だから、ほのかよりも大きなシャボン玉を作れる。どうせならすっごくすっごく大きなやつを作ろうと、口をつけてまず思いきり息を吸いこんで――――はけなかった。 お腹が急に、ぶわあっとふくれたのだ。 「おにいちゃん!?」 叫ぶほのかがゆっくりと遠ざかる。そう、そう。ぼくは宙に浮いているのだ。ほのかがぼくのうでをつかむ。だけどぼくはどんどんと上にあがる。ぱんぱんにふくらんたお腹が、服をかきわけ飛びでている。のどの奥もぱんぱんで、息がとてもとてもくるしい。 足が、ベランダのすのこから離れた。頭の血がぞっとさがる。足がどこにもついていない。体もどこにもついていない。ただ、ほのかの手でぼくの家にくっついているだけだ。 ほのかが泣きだした。息がくるしい。顔がどうしても上を向く。がんばってむりやり下を見てみる。屋根のはしっこなんて初めて見た。もっとあがる。ほのかの手はいつのまにかぼくの足首をつかんでいる。屋根の上なんて初めて見た。空が近い。空しか見えない。 どうしよう。どうしよう。でももう息がぱんぱんで、なにがなんだかわからない。去年の夏海でおぼれた時のことを思いだした。あああの時も気がついたら足がつかなくなってて、なんだか浮いた感じがしたんだけどやっぱこれの方が浮いてるって感じがするなあって浮いてるんだよ浮いてるんだよ浮いてるんだよどうし 「よっクゥウウウウン!!!」 遠くから、田中さんの声がした。いや違うけっこう近い。いやちがう、いやちがう、だんだん近くなってくるんだ。 「よっクゥウウウウン!!!」 くるしくて上しか見られなくて、でもがんばって目だけであちこち探してみると、田中さんがへんな機械にまたがって、空を飛んでくるのが見えた。 ほのかの手がふっと離れ、ぼくはみるみる上がっていく。何かにひっぱられるように、ぐんぐんと上がっていく。 鼻のあたりにぬらりとした銀色のものが巻きついた。 あ、ぐねぐね棒だ。と思った。 その時の記憶はそれっきりだ。そのあとは、もしかして気をうしなうってやつだったんだろうか。全然覚えていなくって、気がつくとぼくは自分ちの二階のタタミの部屋に寝転んでいて、ほのかがそばで泣いていて、田中さんがまっ茶な顔でぼくを見てる。と気がついたのとちょうどピッタリ同時ぐらいに 「田中ァアッ!!」 と、ドスの効いた声が入り口のほうから聞こえた。田中さんがヒィッて言った。 ぼくがこの世でいちばん恐いと思っている、お母さんがそこにいた。 田中さんは怒られた。怒られて怒られて怒られて、今になってようやく少しゆるしてもらえたかもしれない。 「ごめんよぉお。ごめんよぉカヨちゃん」 「ゴメンで済んだら警察がいるかっての。子供に何やってんだか」 言葉はきついけど、いっしょに晩ごはんを食べてるから少しはゆるしてるってことだ。 田中さんは顔をオレンジ色の涙でびしょびしょにしながらサラダを食べてる。 「よっくんもゴメンよお」 「い、いいよ。ぼくがうっかり吸っちゃったからいけないんだし」 「シャボン玉吸っちゃダメにきまってんでしょー。もうやんないのよ。田中はみそ汁食べられたっけ?」 「あ、大好き。ゴメンねご馳走になっちゃって」 いいのいいの、とお母さんは笑っていた。どうやらもうそこまで怒ってないみたい。よかった。 でも、今日の田中さんはちょっとカッコよかったなあ。なんだろう、あの空飛ぶ機械。つるつるしてて銀色で、田中さんをかたくした感じだったなあ。ちょっと灰皿みたいな形。 田中さんは嬉しそうにみそ汁を飲んでいる。のどがとてもわかりやすく、ピンク色に変わっていった。田中さんはいつ見ても飽きないなあ。いいなあ、田中さん。 「ね、田中さんてうちゅう人だからそんなんでしょ? じゃあ、うちゅうに行ったら田中さんみたいな人がいっぱいいるの?」 「んー、まあいろいろいるけど結構多いね」 田中さんはみそ汁を食べ終わって、こんどはカレーにとりかかる。ぎんいろのはだが、蛍光灯の光をあびててらてらと光っている。やっぱり見ててオモシロイなあ。 「日本人も、いつか簡単に行けるようになるかもね」 「21世紀だもんねー」 お母さんはへらへらと笑っている。なんか、話を楽しんでるっていうよりぼくを見て楽しんでるみたい。ほのかがカレーをぐちゃぐちゃにして食べている。ぼくはそれを横目で見つつ、はやくうちゅうに行けるようになりたいなぁと考えた。 でも、うちゅうってのぞみ500系でどのぐらいかかるのかな。 ハワイとどっちが遠いかな。もしかして10時間とかかかっちゃうのかな。 そうだったらたいくつでしょうがないので、ぼくは新幹線がもっともっと早くなるといいなと思った。 だって、21世紀だしね。 へいじつや / 読みきり短編全リスト |