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おお神さま仏さま。私はどうして日本人に生まれてしまったのでしょう。 そんなことを考えながら、私は廊下を歩いている。この寒ぅい家の中を、大好きなコタツと別れてまで進むはめになったのも、すべて日本人の日本人らしい日本心が悪いのだ。 だって、和菓子には抹茶でしょ。しかも京都の生菓子とくれば。 というわけで、私は神と仏に愚痴を言いつつ兄の部屋に向かっている。 「ん? ジャパニーズならホトケだけか? いやしかし無宗教だし……」 神道も昔からあるし。ああわからない、わからないわ日本心。おおげさに崩れ落ちたいところだが、観客も通行人もツッコミ役すらいないので、想像にとどめておく。なんだよもう、ただでさえ親が共働きだってぇのに、旅行になんか行きくさってこのバカ兄が。春休みの女子高生に留守番させるなってんだ。ふんだ、徹夜でゲームとかしちゃったもんね。部屋にも無断で押し入るもんねーっだ。 「バカお兄ー。茶道具勝手に借りますよん」 まあ留守なんですけどね。二人きりの兄妹なもんで、今さら侵入を躊躇する秘密なんてひとつもない。部屋の中は趣味の和風グッズだらけで、ここは映画村の売店かと言いたくなるのも、すみっこには戦国武将の甲冑レプリカまであるのも、ぜーんぶ見慣れた景色なのだ。 「オラオラ入るぞこんちくしょー」 トトンがトン。 悪ふざけのノックをして、「番犬在中」なんて札の下がったノブをひねる。 なーにが番犬だ、動物アレルギーのくせしてさ。なんて思いながら踏み込むと、カラカラカランとどこかで聞いたような音。あれ、これなんかで……ええとほら時代劇のさ、盗人が入ったら知らせる木の罠の……。 「くっ、くせ者、くせ者ーっ!!」 頭上から甲高い声。だ、だだ誰誰誰っ。ていうか機械? 通販購入? どうしよう、であえであえであえーとか言われて囲まれたりするのかしら。それはちょっと怖そうだ。 だがしかし、続いたのは風を切る妙な気配。そして何かが肩にくっついた、妙に軽い感触だった。 「どうだ賊めっ。今のうちに去ねば命は助けてやろう。だが従わんというのなら……っ!?」 キイキイとうるさいので掴んでみてぎょっとする。手の中にかるくおさまる黒いかたまり。四本の手足でじたばたと暴れるそれは、小動物ではなく、クモでもなく、藍装束に身を包んだ小さな人間だったのだ。 「は、はなせー! 卑怯であるぞっ! はーなーせー!」 お、おおおおおもちゃだよね。ほら電池とかで動く、さあ。だってだってそんな、だって。いや人肌程度にぬくいけど。ぐにょぐにょしてて、掴んだら腹のあたりに肋骨とか感じるけど! ものすごいリアルさが売りの人形だと言ってほしい! だが体長10センチ程度の人は近くの棚にぴょんと移り、到底おもちゃにはできそうにない動きで乱れかけた服を直す。そして背負う刀を抜くと、きらりと私に宣言した。 「若の部屋を荒らす者は、この忍者安穏が成敗いたすっ!」 いくらお兄が和風マニアのバカだからって、まさか隠密まで飼っているとは、誰が想像できようか。 私は初対面の忍者を前に、とりあえずおおげさに崩れ落ちた。 [続きは冊子版にて] へいじつや |